旅する下町ショコラティエの野心(アーティチョークチョコレート編)

カカオエスプレッソ。
耳慣れない言葉だが、それもそのはず。店主の宮下さん曰く
「日本では多分ウチしか出してないんじゃないでしょうか」
と言う、カカオの粉をお湯に溶いただけ、まさにカカオ100%の飲み物だ。

鼻先をくすぐってくるエキゾチックな香りに胸をときめかせながら頂いた。とろりとろりと口に流れ込んでくると、そこから舌の上で七変化を遂げる。

香ばしさや木の皮のようなスパイシーさ、華やかな酸味、そしてほのかな苦味。これまで自分が体験してきた味や香りの記憶と照らし合わせながら、思わず目を閉じる。あれかな?これかな?と思うたびに奥行きが出てくる。

驚いたのは、甘酒のようなフルーティな香りもあること。
すると「チョコレートは、実は発酵食品なんですよ」と宮下さんは言う。
えええー。衝撃の一撃。そして、若干宮下さんがニヤリとほくそ笑んで見えた。
私はもう根掘り葉掘り聞かずにはいられない。
え、え、え、チョコレートって、えっ!?

 すっかりコーヒーの町として定着した清澄白河に2015年11月にオープンしたアーティチョークチョコレート。

bean to bar(豆からチョコレートバーまで)という職人気質のチョコレート作りが注目され、開店間もない頃から多くのメディアで取り上げられてきた話題のショコラティエだ。アンティークなどを使った店内のアートな雰囲気と、地元の人にも愛されるあたたかさも人気を集めている理由だろう。

 ドアを開けて店に入ると、通奏低音のように深いチョコレートの香りが広がっていた。もうそれだけで来てよかったと思ってしまう私だが、この日、このお店の魅力はチョコの香り同様、とても深いところから立ち昇ってきていることを知ってしまった。

 そもそも私はチョコレートがたまらなく好きで、ある時期は毎日板チョコ1枚食べていた。それだって、頑張って我慢してそのレベルに抑えていたのであって、できることなら、太ることも虫歯になることも気にせず1日中チョコレートを頬張っていたいとさえ思っていた。

ひょっとすると、ビールよりもワインよりも好きかもしれない、といえば、私のことをよく知る人ならどれほどのことか察して余りあるだろう。