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リリーのすべて

★★★★★(5/5)

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

映画評

吃音に悩む英国王・ジョージ6世が、矯正に取り組んでスピーチ下手を克服していく『英国王のスピーチ』で、アカデミー賞作品賞、監督賞などに輝いたトム・フーパー監督。今作もまた、ハンデキャップを生まれ持つ男性の物語だが、決して煽動的ではない語り口がすばらしい。

1926年、デンマークのコペンハーゲン。画家として名声を得て、そして仲睦まじい夫婦生活を送っていた青年、アイナー・ヴェイナー(エディ・レッドメイン)。だが、結婚6年目にして、彼の中である感情がわきあがってくる。それは、同じく画家である妻・ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)が、バレエダンサーの肖像画を描いていたときのこと。モデルが欠席し、その代役として「足元のモデルになってほしい」とストッキング、サテンの靴を履かされ、今まで感じたことがない恍惚に覆われる。以来、自分の中に潜んでいた「女性」を意識することに。

ストッキングに通した自分の足を見つめるアイナーの表情。ゲルダとのセックスの際、「脱がないで」と衣類をつけさせたまま抱き寄せ、彼女の肉体ではなく生地の感触に快感を得るところ。フェティシズム描写としてもお見事であり、またアイナーが男性的欲望ではなく、女性に対する羨望へと傾いていく瞬間も実に丁寧に描きとられている。トランスジェンダーという言葉、概念が確立されておらず、世界でも前例のない性別適合手術に挑んだアイナー。こういった映画は得てして、マイノリティー闘争の話になりがちだが、しかし周囲の理解、偏見といった感情論を削ぎ落とし、あくまで旧時代の視点の中で、彼(彼女)の境遇がいかに変質かつ異質に映っていたかという「存在の見え方」に着目しており、ドラマとしての感動、受けを狙っていない語り口に好感を持った。

中でも、アイナーの女装を「芸術家の遊び」と当初考えていたゲルダが、女性の格好をさせて舞踏会に連れ出す場面は印象的だ。女装をした自分を大勢に見られる緊張感。しかし周りの目は、男性であることがバレているものなのか、それとも美しいと思われているものなのか、判断がつきづらい。「バレていないよね?」とアイナーは言うが、観ているこちら側も「どっちなんだろう」と思ってしまう。いかようにも判断できる表現がなされている。

アイナーの妻・ゲルダも良い。夫を受け入れようとする一方、アイナーの旧友・ハンス(マティアス・スーナールツ)にオトコを感じて気持ちが移ろってしまう。しかもこのハンスという男、階段二段下にいても目線がゲルダと同じところにくるくらいの長身。元々ボクシングをやっていたというマッチョで、女性に目覚めゆくアイナーとは真逆の、ギラついた野獣性を秘めた感じがまた妙にリアル。『博士と彼女のセオリー』で、エディ・レッドメインが演じた車椅子の物理学者の妻を思い出した。

監督/キャスト等

■監督:トム・フーパー
■出演:エディ・レッドメイン/アリシア・ヴィキャンデル/ベン・ウィショー/アンバー・ハード
■配給:東宝東和
■公開:3月18日

関連サイト(外部リンク)

http://lili-movie.jp
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。