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第39回モントリオール世界映画祭でアンコール上映され、話題となった映画『ねぼけ』(公開中)。一向に芽が出ない中年噺家が、自分にとって大事なものに気づいていく人間ドラマだ。

今回が初の長編作品となった、壱岐紀仁監督。「『男はつらいよ』の寅さんのような三枚目の主人公が、自分を想ってくれる恋人に対し、ごめんとありがとうを伝える物語を作りたかったんです。女性鑑賞者から、『10回くらい本気で殴りたい』と言われたくらいのダメな男ですが、ダメなりに生きているところを映しだしました」

すぐ酒に逃げてしまい、金がないのにパチンコに行ってしまう、だらしなさ。飲食の金を出してくれるなど、何かと面倒をみてくれる彼女のことを、「そうするのが当たり前」という風に見ている。演じた友部康志は、「女にモテないというところは、主人公と一緒です(笑)。金や仕事に困っている部分も、売れない俳優をやっている私としては、投影をしやすかった。今、42歳なのですが、この年齢はきっぱり夢を諦めて別の人生にいくか、最後まで続けるかの分かれ目。(主人公の)三語郎はまさに同じだと思うんです。自分に引き寄せるものが多かったですね」

壇上で噺が頭から飛んでしまうなどミスばかり、単独の寄席をやろうとしても予約は彼女一人だけ。しかも、弟弟子の彼女に手を出すと言う、人としてのタブーを犯す三語郎。それでも彼を見放さない、恋人の真海(村上真希)。

壱岐監督は、「確かに彼女は、男からすると“重い”かもしれません。実際、僕自身もかつてそういう女性から逃げ出したことがあります」と振り返りながら、「でも男は勝手なもので、別れてからそんな彼女の大事さを思い出す。男って本当にダメですよね。本作では、最後にある出来事が起きますが、そこで『今ある幸せをちゃんと考えて欲しい』と気づいてもらえるようにしました。三語郎が挑む落語『変り目』は、もともと古今亭志ん生師匠が、妻や恋人への懺悔を究極に描いて、それでも届かない様を演じています。それを現代的な解釈にして、三語郎を通して突き詰めました」

いつからか真海と向き合うことをしなくなった三語郎が、どこで彼女の思いやりに応えるのか。それがこの物語のポイントになる。友部は、「芝居をしているとき、心がけていたことがあったんです。真海の前では感謝の気持ちをはっきり伝えない、ということです。いただきます、行ってきますですら、聞こえるか聞こえないかくらいの声。それを言うタイミングをかなり考えました。とにかく、面と向かって言わない。簡単にそういう言葉が出ちゃうと、大事なところで薄っぺらくなっちゃうので」と慎重に演技を重ねていった。

男性にとっては、思い当たるところが必ずどこかあって、痛いところを突かれる気持ちになるだろう。しかし、壱岐監督は「女性のみなさんの反響が意外にも大きくて嬉しい」と喜ぶ。

「真海の描き方が良かったのかも知れません。彼女には悪いところがひとつも見当たらない。実は、僕の祖母がモチーフになっているんです。とにかく、愛の人。そんな祖母の姿を重ねました。女性の鑑賞者からは、三語郎を見て、『うちのダンナと一緒だわ』という声もあがっています(笑)」

映画『ねぼけ』は全国公開中
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。