序文

楳図かずお 1936年、和歌山県生まれ。生後7ヶ月で、母にもたされた筆で図形を描いていたという。
幼いころ、楳図まんがを読んでトイレに行けなくなった人は、結構いらっしゃるのでは? 私(早川)がうっかり楳図シャワーを浴びたのは小学校2年生。近所の本屋さんで立ち読みしたら、腰が砕けた。それから毎日、怖くて怖くてやめたいのに、足が本屋へ…。
小2にして不眠症にもなった。『窓の外におばけがいるよ〜…』。母に助けを求めたいが、もしや、母にも“おばけ”が取り憑いていないか? 母親という、安寧の存在に恐怖を感じたのも、楳図ホラーの洗礼だった。
「お母しゃんは、ヘビ女じゃないか!?」、とうとう母を指さして言った日、私はお尻が割れるほどぶたれ、本屋は出入禁止になった。しかし妄想は止まらない。夜は布団から両手を宙に突き出して、バリアを張った。
この結界が破れたら、自分も“おばけ”になってしまう…。そんな姿を暗闇で見て、母はキャッと叫んだ。小学4年生のとき、私は両親に遠くの田舎に連れて行かれ、楳図まんがとの蜜月は終わる。
今は、夜の恐怖はすっかり忘れたし、妄想力もなくなってしまった。「楳図作品って、エロチックでもあったな〜」と思いながら頁を繰ると、恐ろしさより、懐かしさが先に立つ。しかし、どこかで、原始的な恐怖を忘れたくなくて、今も楳図先生に近づいていってしまうのかもしれない。
先生は読者を裏切らず、いつも「ちょっとフシギ」をサービスしてくださる。
唯言その一
◆これからの時代を生き延びるには……『日本人は、もっと“芸術”心をもったほうがいいと思います』(楳図かずお)...(次ページへ)