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スティーブ・ジョブズ

★★★★☆(4/5)

(C)Universal Pictures

映画評

アップル社の創設者で、Mac、iPhone、iPodなど色んな“発明”を一般生活レベルで世界中に根付かせたスティーブ・ジョブズ。2011年に亡くなってもなお絶大な求心力を誇る歴史的カリスマ。だが映画でも指摘されているように、彼はプログラムを書けるワケでもなく、デザインができるワケでもない。アップルのコンピューターを作ったのは、実際は共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックだ。では、そんなジョブズが武器にしていたものは何なのか。数々の伝説的なプレゼンからも分かるように、理想論と口先だ。この映画では、彼のアイデアの引用元がどこにあったかが語られている(その理想論は、今で言うところの「サブカル野郎」とそれほど変らないところが面白い)。

1984年、アップル社の新製品であるMacintoshの発表会直前。だが、Macintoshに内蔵した音声ソフトを使い、発表会で「ハロー」と挨拶させたいのに、反応がない。「音声ソフトについては(事前に)宣伝していないから、省いても大丈夫だ」と説得されても納得せず、「そんなに『ハロー』が大事なのか?」と尋ねられれば、「映画のコンピューターはみんな怖いじゃないか」と返す。ジョブズの頭にあるのは、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』のHALだ。HALの驚異を実現させたいがために、「発表会の時間までに直せ」と音声デモの開発者を脅す。またあまりに独創的がゆえ、コンピューターユーザーの醍醐味である拡張、改造を受け付けない作りに関してツッコまれると、「ボブ・ディランは作詞にファンの協力は求めない」と例える。自分はアートを創っているのだ、と。

1988年、そのMacintoshが大コケして、アップルを退社せざるを得なくなった彼が、新たに立ち上げたネクストで考えた製品が、NeXT Cube。当時珍しかったモニタースタンドの角度にこだわったジョブズは、質の部分の向上を訴える声を封じ、「小沢征爾に、指揮者とメトロノームの違いを尋ねた話があって…」と、とにかく角度の話ばかり。1998年のiMac発表会では、チャップリン、ジョン・レノンらの写真を掲示し、オープニングムービーにはキング牧師やモハメド・ハリを登場させることで、自分もそこの並び称される偉人だと言いたげ。そんなジョブズに、スティーブ・ウォズニアックはついに爆発して、「君はジョン・レノンのように振る舞っている。一方、僕はリンゴ・スターのような扱い。でも実際は僕が作っていた。君は、楽器ができないのに『バンドをやっている』と言っているようなもの」と一番イタいところを突かれてしまう(そこでジョブズが「僕はリンゴ・スターじゃない!」とキレるのが、とにかく笑える!)。

ジョブズは、天才やアーティストへの憧れがありながら、しかし技術的に「何も出来ないこと」がコンプレックスなのが、よく分かる。それでもトップになりたい。アーティストになりたい。ジョブズが自分の強さを見せようとすればするほど、弱さが目立ってくる部分が、本作の見どころ。「スティーブ・ジョブズ」はどんどんはがれ落ち、しかし人間的には成長しているように映る。これが、この物語の不思議な魅力へと繋がっている。

監督/キャスト等

■監督:ダニー・ボイル
■出演:マイケル・ファスベンダー/ケイト・ウィンスレット/セス・ローゲン
■配給:東宝東和
■公開:2月12日

関連サイト(外部リンク)

http://stevejobsmovie.jp
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。