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ヘイトフル・エイト

★★★★★(5/5)

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映画評

『ジャンゴ 繋がれざる者たち』(2012)以来となるクエンティン・タランティーノ監督の作品。撮影は70ミリフィルム、しかも「『戦艦バウンディ』『おかしなおかしなおかしな世界』『偉大な生涯の物語』『バルジ大作戦』など一握りの映画でしか使われておらず、1966年の『カーツーム』が最後に使用した」というウルトラ・パナビジョン70アナモルフィック・レンズを使用。画角はなんと2:76:1!世界最横長!2017年公開予定『スター・ウォーズ』のエピソード8もこの撮影方式で撮影されると言われているが、その真の迫力はIMAXでしか味わえないだろうし、何よりフィルムでの上映を熱望したい。

デジタル化、3D、4DXの登場…と映画の作り手、ビジネスは新たな時代をどんどん突破しようと試みている。が、タランティーノ監督はそこからこぼれ落ちたアナログの面白みをすくいとっている。でも決して懐古主義ではなく、ちゃんとデジタルとマッシュアップをしている。本作を鑑賞して、タランティーノ監督は、今の時代に映画館で映画を観ることの特別性としっかり向き合っていると改めて実感できた。その気迫は冒頭からひしひしと伝わってくる。手前には、雪が乗っかったキリストの磔像。その奥遠くから駆けてくる、駅馬車。猛吹雪に追われるように、「観客側」へ向かってやってくる。ロングショットと長回しでじっくりと撮られたファーストカットは、フィルムの限りある持ち時間を意識させつつ、デジタル3Dではあらわせないフィルムならではの深い奥行きの視覚感覚。画の中の強度に、「この映画は勝ちだ!」とさえ思った。

ある店の一室に、捕らえられた賞金首の重罪犯の女、賞金稼ぎ、保安官、カウボーイ、元将軍ら合計8人が居合わせる。この中に、重罪犯の女を助け出そうとする人間がいる。それが誰なのかが暴かれていく。168分という長い上映時間のうち、最初の60分くらいはずーーーーーっとダラダラと喋っている。かなり、しつこく。そして5分に1度は発している印象の「ニガー」という黒人差別用語。重罪犯の女はパンチを食らい、血反吐を大量にぶっかけられ、とにかくいろんなものを顔面に浴びてボコボコになりながらも奇怪に笑う。タランティーノ監督の作品を初めて観る人にとってはかなりヘヴィかも知れないが(笑)、「タランティーノの映画だから…」という前提があると、その「冗長」すら贅沢で愛おしく映ってしまう。しかも「どんなことがあっても映画はフィクションでファンタジーなんだから」と言えるラストの強み。

「映画館に一歩足を踏み込めば、この168分は、何が起こっても逃げ場はない。俺とお前だけの時間だぜ」と言いたげな作品。密室サスペンスだが、観客にとっても映画館という密室に閉じこめられる。素性の暴き合いは、こちら側の「映画を観る資質」みたいなものまで暴かれる錯覚に。とことんまでこの映画に向きあってしまった。

監督/キャスト等

■監督:クエンティン・タランティーノ
■出演:サミュエル・L・ジャクソン/カート・ラッセル/ジェニファー・ジェイソン・リー
■配給:GAGA
■公開:2月27日

関連サイト(外部リンク)

http://gaga.ne.jp/hateful8
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。