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光りの墓

★★★★★(5/5)

(C)Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives)

映画評

まるでアピチャッポンに「想像力」を試されているような、そんな気分にさせられる逸品だ。

2010年に『ブンミおじさんの森』でカンヌ映画祭パルムドール(最高賞)を受賞し、あのティム・バートン監督に「21世紀最大の才能」と絶賛された、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督。世界中が待ち望んだ、5年ぶりに製作された『光りの墓』は、『ブンミおじさんの森』をより研ぎすませたような、そして観る者をどんどん没頭させていく圧倒的な「映画世界」に驚く。

原因不明の「眠り病」にかかった兵士たちが入院している、タイ東北部イサーンの仮設病院。見舞いの家族がいない兵士を世話する主婦・ジェン(ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー)はそこで、前世や過去の記憶を見たり、死者や失踪者と交信ができるという若い女性・ケン(ジャリンパッタラー・ルアンラム)と知り合う。それ以降、ジェンは、人間の姿形をした、お堂に祀られている王女様と出会い、さらに眠っていた兵士がケンに乗り移るなど、不思議な体験を目にする。

語りで展開していくのではなく、徹底的に俯瞰的かつ抽象的なカットの連続性で物語を進めていく。しかし、その奥底や裏側には、タイの「現在」が映しだされている。時折挿まれる工事のシーンは印象的で、ショベルカーによって地面・土はどんどん掘り起こされていく。また映画館で映画を観る場面では、予告編が流れた後、スクリーンでは何も映らず、観客はただただ立ち尽くす。ちなみにその映画館は、シネコンだ。どちらも、古くから伝わってきたものが、次々と塗り替えられているようなカットだ。

検閲で表現の自由が制限され、2014年5月の軍事クーデターの影響で市民による政治的活動も厳しく取り締まられている。古き良きゆるやかな時間が流れている雰囲気の反面で、急速に社会は動いており、光りと陰の部分が複雑に絡み合いながら未来へ進行している。様々な場面は、そういったリアルなタイを表現しているようである。

大衆化、均一化されていくこの時代、人々のイマジネーションはどうなっていくのか。そしてSNSなど言葉が氾濫する中で、言葉を主としない表現は、人々の想像力にどのような刺激や影響を与えるのか。稀代のアーティスト、アピチャッポンの「映画」を追求した実験と挑戦を肌感覚で受け取って欲しい。

監督/キャスト等

■監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
■出演:ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー/パンロップ・ロームノーイ
■配給:ムヴィオラ
■公開:3月26日

関連サイト(外部リンク)

http://moviola.jp/api2016/haka/index.html
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。