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2016年4月期にスタートしたテレビドラマは、それぞれ5話前後までストーリーが進み、特色も見えてきた。そんな今期のドラマだが、映画ファンとしては、実力派の映画監督たちが各作品に携わっているところを見逃さないで欲しい。

特にアツいのが、深夜枠のドラマだ。松田翔太を主演に迎え、9月3日に映画公開も決定している『ディアスポリス 異邦警察』(写真)は、社会の裏側で生きる密入国外国人たちのコミュニティーを描いているが、5月21日公開『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也監督、公開中の『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』や『ローリング』の冨永昌敬監督、『私の男』『夏の終り』の熊切和嘉監督、『モヒカン故郷に帰る』助監督・茂木克仁が手がけている。それぞれ、触れてはいけないような人間模様、狂気的な精神性が沸々とにじんでくる映画を手がけてきたが、この『ディアスポリス』もアウトサイドかつ異質な男女たちが交わる様に引きつけられる。

毎回さまざまな仕掛けにびっくりさせられるのが、松岡茉優、伊藤沙莉が主演『その「おこだわり」、私にもくれよ!』だ。これは『フラッシュバックメモリーズ 3D』『トーキョー・ドリフター』などで知られる松江哲明監督によるフェイクドキュメンタリー。番組冒頭「このドキュメンタリーは、フィクションである」というテロップが映しだされる。プライベートでは仲の良い松岡、伊藤が、各界で活躍する人たちの“こだわり”を探る番組のレポーターを務める中で、その関係性が微妙になったり、また登場する人物の“おこだわり”がテレビ的にふさわしくなかったり…。

それらはすべてフィクションとして描かれているのだが、しかし第3話では漫画家・大橋裕之と伊藤が濃厚なキスを見せ、Twitter上で視聴者が驚きの声をあげるなど、「嘘」で塗り固められた世界の中に、観る者を困惑させるような「本当」のリアクションを絡めている。もともと松江哲明監督は、演出、編集など作為的なものを重ね、その中からあふれ出るリアリティーを“ドキュメンタリー”として映しだしてきた。今やどこまでが真実を捉えているのか分からなくなっているテレビという媒体を使い、嘘を前提としたドキュメンタリーを生みだすあたりに、松江哲明監督の凄みを実感する。

そのほか深夜枠のドラマでは『ドクターカー』は『探偵はBARにいる』の橋本一監督、『ナイトヒーローNAOTO』は『プウテンノツキ』の元木隆史監督らが担当している。

ゴールデンタイム枠で注目は、岡田将生主演の『ゆとりですがなにか』だ。『謝罪の王様』『なくもんか』『舞妓haaaan!!!』の脚本・宮藤官九郎が、監督・水田伸生のコンビによる本作は、1987年に生まれたゆとり第一世代の若者たちが、社会の中で、上の世代、そしてゆとり新世代の間で奔走する青春物語。クドカン×水田の組み合わせはコメディー色が強いように思えるが、今作は、バブル後の日本において、新しい国づくりの一環としてゆとり教育などさまざまな部分で“実験”をされてきた世代の苦悩と向き合った、社会ドラマになっており、実に見応えがある。

また、黒木華が雑誌編集者として成長するヒロインを演じる『重版出来』は、『ビリギャル』の土井裕泰監督が演出の一人で参加。松本潤が弁護士役に挑戦した『99.9 刑事専門弁護士』は、『木更津キャッツアイ』『大奥』の金子文紀監督がクレジットされている。

テレビドラマというと出演者の人気俳優に注目が集まるが、作り手にも目を凝らして観てみると、そのドラマの作風をより深く楽しめる。


田辺ユウキ(映画評論家)

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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。