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物や場所に残った人間の記憶、感情「残留思念」を読みとる男が、ひとりの女性の失踪事件の真相を追う映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(公開中)。配給、製作を手がけた映画会社・東映にとっては、2012年に公開された森田芳光監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』以来となる、オリジナル脚本作品(漫画や小説などの原作を持たない脚本)だ。手がけたのは、かつて森田芳光監督作で助監督を務め、その後『デスノート』や『ガメラ』シリーズなどを手がけてきた名監督・金子修介だ。

「今や、商業映画を作ろうとすると、まずコミック、小説などの原作がどれくらい売れているか、その保証がないと企画が通らない空気がある中で、東映の須藤泰司プロデューサーは『オリジナル脚本の映画を作ろう』と大きな決断を下した。主演の狂言師・野村萬斎さんが今回、初めて現代劇に挑戦するにあたり、既成の世界観の上にのせるのではなく、ご本人のキャラクターを広げていって、役をおもしろくしていこうという発想があったんです。漫画の原作が多い中、独自の戦い方ができるという意味でも、この映画の存在理由があっていいんじゃないかと思います」

野村萬斎演じる主人公・仙石和彦は、漫才コンビで一世を風靡するが、知りたくもないような他人の感情や事実まで読み取れてしまうため、心を病み、部屋に閉じこもっていた。そんな彼が、外の世界へ再び出ていき、事件に迫る。物語をぐいぐいと引っぱっていく野村萬斎の演技、浮世離れした仙石のキャラクター像。ヒーロー映画としてきわだった面を見せている。

「萬斎さんは『自分の芝居が不自然だったら、注意をして欲しい』という気持ちで臨んでくださいました。声の大きさ、姿勢などこちらも細かく指摘して、仙石和彦という男を作っていきました。僕自身、演出家として、萬斎さんの能力をどれだけ引き出し、映画の方向性を見せられるか、かなり考えました。スタッフの間にも、『映画らしい映画を作るんだ』という意気込みが行き渡っていました」

キャラクターをどのように見せるか。2016年1月、Twitterでの金子監督のツイートが話題となった。アニメ映画『ガールズ&パンツァー』を観た金子監督が、「女性キャラが多過ぎて見分けつきません」とつぶやいたところ、“ガルパン”のファンを中心に物議をかもしたのだ。決して作品自体を「おもしろくない」と言っているわけではなく、むしろ設定やアクションの魅力について評価をしていたのだが、「キャラ同士が似過ぎていて見分けがつきにくい」という部分が誤解をされてしまった。

「『見分けがつかない』と映画を観た感想を言っただけで、決して批判はしていないんです。僕自身、“ガルパン”が好きな方にぜひ『スキャナー』も観て欲しいなと、ずっと思っていたくらいだったので。『スキャナー』の仙石が見る残留思念は、いわば二次映像なワケです。彼は、目の前で起こっている現象よりも、よりリアルに二次映像を感じて生きている男。ひとりの女子高生が持ってきた、ピアノの先生の爪やすり。そこにはもともと、女子高生に対する先生の想いが込められていたんだけど、いつしか自分への想いだと感じてしまう。二次映像の方をリアルに感じてしまうから、決してリア充ではない。二次映像を追いかけ、そしてそこに登場する女性に恋をしていくという心理は、オタク的なものと共通していると、僕は考えています。そんな仙石が、現実の美女、美少女をきっかけとして、一歩外に踏み出していく。脚本家の古沢良太君の考えとして、そういう設定はなかったと思いますが、僕の中にはオタク心理への批評的なものが裏テーマとしてありました」

ガルパン騒動について「ちゃんと伝わらない言い方だったので、すみませんという気持ちでした」と申し訳なさそうな表情を浮かべながら、しかし「『ガメラ』が好きだったのに嫌いになりました、金子修介はもうジジイだ、引退しろ…とか、もっとキツいことを色々言われて、さすがに大変でした」という金子監督。「見たくないもの、聞きたくないものまで、こちらに伝わってきてしまって…。僕自身が仙石和彦のような気持ちになりました」と苦笑いをしながら、それでも「どんな形であれ、『スキャナー』のことを知ってくれたなら、それをきっかけにご覧いただけると嬉しいです」と表情をやわらげた。

映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』は全国公開中
◇公式HPはこちら


取材/文・写真 田辺ユウキ(映画評論家)

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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。