このエントリーをはてなブックマークに追加
クリックして拡大

横山秀夫による警察小説の傑作を映画化した『64-ロクヨン-前編/後編』。県警内部の人間模様に切り込み、「広報室」という警察映画としては異例の部署を中心にスポットをあてた、この物語。

時代背景は昭和64年。昭和天皇崩御のため、わずか7日で終焉し、平成へと移り変わった、まさに幻のような時代。その境目に発生した、少女誘拐殺人事件。犯人が見つからないまま時効を迎えるが、事件を引きずり、昭和64年の重みを背負って苦しむ人間たち。その姿を、前編(公開中)、後編(2016年6月11日公開)で描いている。

メガホンをとったのは、『ヘヴンズ ストーリー』『アントキノイノチ』の瀬々敬久監督。瀬々監督は「いまもなお、昭和という時代が持っていた、どこか怨念みたいなものを引きずっているような気がします」と語る。

「僕が大学生の頃、『すでに昭和の次の年号が決まっているらしいぞ』という噂が出回っていたんです。そのときに言われていた年号は、“光(ひかり)”でした。僕は『何か格好いいな』と思い、そのときになったら新しい時代がやってくる気がしていた。そして1989年。ちょうどピンク映画の助監督として働いていました。天皇崩御の1月7日から8日に日付が変わるとき、新宿歌舞伎町の街に出てみた。でも、何も変わっていなかった。今までと見慣れた光景だった。天安門事件、ベルリンの壁崩壊、93年には自民党政権の崩壊。1989年はいろんな変化の始まりだったけど、しかし今では格差社会へと世の中は進んで、状況を考えても良き時代が来たとは言えないですよね。『64-ロクヨン-』は、当時の自分のように、わずか7日間しかなかった節目を、今も思い続ける人たちが映しだされている。何か忘れ物をしたんじゃないか、そういう気持ちになる物語にしたかった」

平成に年号が変わり、1990年代に突入した。中でも1995年(平成7年)、阪神淡路大震災、オウム真理教による地下鉄サリン事件、神戸連続児童殺傷事件といった大事件が起こった。これらの出来事は20年以上経った今でも深い爪痕をのこしている。

「1990年代は、どこか昭和を整理し切れていない感じがしていました。精神的に追いやられているような時代だったのではないでしょうか。しかし2000年になっていきなり、コンピュータが誤作動を起こすのではないかという2000年問題になった。僕自身、その変化がいきなり過ぎて、戸惑いがあったんです。だからこそ、現在もなお昭和は整理し切れていないのだと感じるんです」

天皇崩御、平成元年。その裏側で大きな注目を集めることなく、愛する娘を誘拐され、殺された男(永瀬正敏)。捜査を担当した刑事(佐藤浩市)は、広報官へと役割を変えながらも、事件の真相に迫っていく。

「事件を軸とし、前編では“広報官と記者クラブ”“刑事部と警務部”のぶつかりあい、そして組織の中で個人がどうやって生きるかの人間ドラマを、前編では意識しています。一方で後編はミステリーとして、違うジャンルの見え方がするはず。こういう作り方はやったことがなかったので、僕としても挑戦してみたかった。前編、後編できっと受ける印象が違うはず。それぞれのおもしろさを発見してほしいです」

映画『64-ロクヨン-前編』は全国公開中、映画『64-ロクヨン-後編』は6月11日より全国公開。
◇公式HPはこちら


取材/文・写真 田辺ユウキ(映画評論家)

The following two tabs change content below.
田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。