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人を殴る理由は、「楽しいけりゃいい」。『ノーカントリー』のアントン・シガー、『ダークナイト』のジョーカーなど原理的な暴力性をもつキャラクターを彷彿とさせつつ、しかし『ディストラクション・ベイビーズ』(公開中)の主人公・泰良(たいら)の行動は、より動物的だ。

間違いなく、2016年を代表する傑作。そんな本作について、真利子哲也監督、主演・柳楽優弥に話を聞いた。

『イエローキッド』『NINIFUNI』など次々と衝撃作を生み続けてきた、「インディーズ映画界の大物」。真利子哲也監督の映画を観ると、肉体的にも精神的にも現代的な暴力性が渦巻いており、いつも胸騒ぎが隠せない。商業デビューとなった本作でも「真利子哲也印」がしっかりと押されている。

「これまでずっと自主映画の形で作り続けてきて、その土俵でいろんなことをやってきましたが、『商業映画』だからといって今までやってきたことを緩めず、その流れの中で、一線の役者さんと一緒に映画を作ろうと思い、動き出しました。商業とインディーズを別物にわけるのではなく、純度の高いインディーズ的な作品の気持ちです。ただ、これまで以上に、『たくさんの方が観てくださるものだ』という意識はもちろんしっかりありました」

暮らしていた町を出て、野良犬のような飢えた目で徘徊する泰良。道を歩いていて、目についた人間にいきなり襲いかかる。そんな泰良と一緒に行動したら何かおもしろそうだということで、男子高校生・裕也(菅田将暉)が同行する。『クローズEXPLODE』などでアクションをみせてきた柳楽優弥だが、その中でも今回の動きは、生身のものにかなり近い。

「確かに、監督からも『もっとナチュラルに(喧嘩のシーンを)やってほしい』と言われました。僕自身、今、武道を習っているのですが、やはりまず型(かた)を覚えてやっていくので、動きがシュッ、シュッとキレのあるものになるのですが、この映画で描かれる喧嘩はそうではなく、もっとリアルな動きに近づけなければいけませんでした」

泰良というキャラクターのおもしろさ、それは無敵ではないところ。追随を許さぬ圧倒的な強さを持つのかと思いきや、最初からボコられる。自分から喧嘩をふっかけても、やられる。ただ、とにかく気持ちが折れない。観ていても、彼が負けた気にはならない。そして、勝つまでしつこく相手の前に現れる。相手はそれに根負けしていく。

真利子監督は「単純に喧嘩や暴力を格好良く見せるつもりはなかった」と語る。「いかに負けるか、それが大事だったと思います。どんな人でも、何度も(喧嘩に)来られるとうろたえる。そうやって、どんな相手でもうろたえさせることができるのが、泰良の強さ。実際に、喧嘩のイロハを取材していたのですが、その方も喧嘩をしたとき、負けることがあっても、しつこく相手に向かっていったそうです。気持ちの折れないところに、相手は恐怖を持つのではないでしょうか」

泰良には「楽しい」以外の喧嘩の理由が見当たらない。中盤、ある暴力事件を起こして世間の目にさらされ、泰良と裕也は車を盗んで逃亡する(といっても、泰良は逃亡している気持ちなんて一切ないが)。カーラジオからは、カーティス・メイフィールドの名曲『MOVE ON UP』が流れる。「いつか周りの人も、君を理解してくれるから」というような歌詞なのだが、裕也はそれをプツッときる。ふたりがいかに周囲と断絶しているかが、このシーンで感じ取れる。

柳楽は「僕も周りに何かを言われても、あまり気にならないタイプです」と答える。「もちろん、怒られるよりは褒められたいですが(笑)。ただ、まず『自分はこんなこともできないのか』と考える方が多い。監督の演出に対して、できないこともあったりして、『もっとがんばんなきゃ』となります。泰良も、世の中に何かを言われて、フラストレーションをためこみ、それを発散するために喧嘩をするような男ではない。周りとかは関係ないし、彼にとって暴力は当たり前の行動。僕らが仕事をしているのと、同じ感覚なのだと思います」

柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎ら注目の若手が揃い、さらに真利子哲也監督の商業デビュー作。東京の完成披露試写会で行われた舞台挨拶などで、「世代交代」という言葉が踊った。

柳楽は「実は、いろんな方から『世代交代』を強く打ち出してほしいと言われて…」と笑いながら裏話を明かしてくれたが、それでも「ただ、生半可な気持ちで『世代交代』を口にしたわけではありません」と表情を引き締める。

「キャッチーな言葉なので、(メディアで)取りあげられやすいですが、しかし先輩の役者さん、監督さんたちへのリスペクトを強くこめて言いました。『僕たちもがんばります』という気持ちでした。良い意味で、この映画で新しいものが生まれてほしいです」

映画『ディストラクション・ベイビーズ』は全国公開中
◇公式HPはこちら


取材/文・写真 田辺ユウキ(映画評論家)

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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。