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 水にたゆたう船で移動することの一番の魅力は、やっぱり開放感だと思う。東京の中を流れていく隅田川でも、その上はビルに邪魔されることのない大きな空が広がっていて、小さな船の上ではただひたすら風と景色の変化を楽しみ、乗り合わせている人たちとゆったりとした空間を共有する。船の上に流れている時間もまた、大きな川のようだ。

 いつもより忙しい朝でも、バタバタと支度をしながら冷蔵庫の冷えたビールを保冷バッグに入れることだけは忘れない。しかし、保育園のリュックを抱えた息子にそれを目撃され、「あ、ママ、カンパイ!カンパイ!!」と指をさされてしまった。若干テンションの上がった息子よ、ごめんね。今日は君とのピクニックではないのだよ。ちょっぴり後ろめたい気持ちを笑顔で強引に押し切り、電動ママチャリを駆って息子を保育園に送り届けると、私は通勤ラッシュの電車に飛び乗った。

 赤羽駅西口からバスに乗って小豆沢(あずさわ)公園で下車すると、横断歩道を渡ってすぐのところに小豆沢水上バスのりばがある。月に数回しか船の立ち寄ることのないごく小さな船着場だ。あたりにはポツポツと乗客らしい人たちの姿がある。ほどなく、両国から上ってきた水上バス「さくら」が、新河岸大橋の手前でUターンして接岸すると、ここから20名ほどが乗船した。

 私は一人旅。あー、なんて懐かしい響き。一人旅。独身の時には自虐的な要素すら持っていたこの言葉が、今の私にはとても贅沢な言葉として君臨する。家族との旅はもちろん幸せだし楽しいが、誰のお世話も心配も段取りもしなくていい一人旅の気楽さったらない。ほぼなりゆきまかせのときめきよ。私に幸あれ。

 11時25分、小豆沢を出航。私は最後部の甲板のベンチ席に座って風に吹かれる。川の水はほんの少し臭う感じもするが、エンジン音、その振動、水の抵抗、じゃぶじゃぶと跳ねるたくさんの飛沫、雲間から顔を出した太陽、その太陽の熱を奪ってくれる風。どれもとても心地いい。真っ青な空の下、日常は航跡とともにどんどん後ろへ流れていく。

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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/