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此元和津也の同名漫画を映画化した『セトウツミ』(2016年7月2日公開)。瀬戸、内海というふたりの男子高校生が、学校終わりに川沿いの階段に腰をかけ、ずっと喋っている。スポーツに励んだり、恋愛に日々を捧げたりするのが、若者らしい若者なのか。それがあるべき青春映画の姿なのか。その考え方を大きく覆す、ふたりの日常。「こんな青春もあっていいじゃないか」と思わせる、味のある「若者映画」になっている。

メガホンをとったのは、『まほろ駅前多田便利軒』『さよなら渓谷』で知られる大森立嗣監督。瀬戸と内海が、ただただ、とりとめのない会話をしている本作。しかし同級生から「なぜ部活をやらないのか」としつこく問われた内海が、「暇を潰すだけの青春があってもいいじゃないか。汗を流したり、クリエイティブでいなきゃいけないのか」と心の中で呟く場面など、いろんな物事に疑問を抱いて十代を過ごす人(過ごした人)の核心を突くエピソードが多い。

大森監督も「この映画には、自分も共感できる部分が多い」と語る。「僕は自分で空手の道場に通っていたから、学校の部活には入っていなかった。だから、帰宅部のみんなと2、3時間、くだらないことをずっと喋りながら帰っていた。でも、そういう時間が好きでしたね。今でも、やっていることは変わらない気がします。映画を作っているときも、仕事をしているという感じではないんです。あのときの感覚を忘れていないですね。仕事っぽくなると、つまんなくなるから。昔からそうですけど、部活をやってない人って少ない。ただ部活をやっていても、やっていなくても、いろんな価値観がある。やっていなくても、気にしなくてもいいですよ。大きい目で見たとき、決してそれだけが社会ではないから」

毎日何かをやっていないと、不安で仕方がない。物事に打ち込んでいないと、周りに置いていかれるんじゃないか。それが、「自分たちはどういう大人になるんだろう」という将来への怖さに繋がる。瀬戸、内海は、ぼんやりとした日々を送りながらも、くたびれた中年男性を見て「自分がああなるとか、想像もできない」と口にする。

「それは、若者みんなが思っていることでしょうね。でも僕自身、『歳をとるのが嫌だな』という感じはなかった。僕の場合は近くに格好いい先輩がたくさんいたから、『あんな大人になりたい』と考えながら生きていた。映画界に入ったときは、最初に助監督をやらせていただいた、阪本順治監督が憧れでした。何でこんなに色っぽくて、格好いいんだろうって。きっと、背負っているものが大きいんでしょうね。今の僕は、出会った頃の阪本監督より歳が上になったけど、あんな大人にはやっぱりなれない。もう、種類が違うんでしょうね(笑)。今でも阪本監督にお会いしたら、緊張します」

絶妙な脱力感で瀬戸、内海を演じるのが、菅田将暉、池松壮亮。座る位置、距離感、会話のトーン、表情。大きなアクションがない物語なのに、ぐいぐいと引きつけられるのは、彼らの芝居の力が大きい。

「どの作品にも当てはまりますが、僕が『こうして欲しい』と要求をしちゃうと、それは芝居ではなく、振付けになってしまう。台詞を言わされている感じにはしたくない。自分の感情を自然に出して、それを芝居として反応させて欲しい。今回特に気をつけたのが、瀬戸、内海の座る距離感。撮影初日、ふたりにちょっと座ってもらったんです。『近いかも』『少し離れてみて』とやってみて、菅田君、池松君から『これですね』という声を引き出せたものがあった。それがすごく生きた場面が、家庭の事情を抱える内海が、瀬戸に『晩御飯、あるだけいいやん』と言って、瀬戸が『怖っ…』と返すシーン。必要以上に同情をしない、彼らの関係性が好き。同情をされ過ぎると、きついじゃないですか。あれくらいの距離感が楽ですよね」

大森監督は、映画監督と役者の距離感、関係性についても「瀬戸、内海ぐらいがちょうどいい」と話す。

「演出家としても、役者との距離感はすごく大事。今作では、『じゃあ本番やるよ』と声を掛けると、キャスト、スタッフがぞろぞろ集まってきて、撮り終わると、菅田君、池松君も別の方向に散らばっていって。それくらいが心地いい。何か用事があったら、僕が煙草を吸いながら、『このシーンは…』とふらっとそれぞれのもとに行く感じ。近過ぎると、気持ちが悪いんです。それに監督、演出家としては、役者には『甘えたらダメだよ』という気持ちもある。菅田君、池松君はそういうことがちゃんと分かっている。でも中にはいるんですよ、『どうしたらいいでしょうか』とこっちに近寄り過ぎる役者さんが(笑)。そういうときは、『もっと自分で考えた方がいいよ』と言います。自分で考えてやった方が絶対に良くなる。この『セトウツミ』の役者さんたちはその点、自分で動いているから、生き生きとした演技になっています。ぜひ、そこを観て欲しい」

映画『セトウツミ』は2016年7月2日より全国公開
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。