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2002年に発覚した北海道警察による組織ぐるみの不祥事「稲葉事件」。覚せい剤取引、拳銃売買、そして裏金作り。そのすべての責任を負った元刑事・稲葉圭昭のノンフィクションを映画化した『日本で一番悪い奴ら』(公開中)。

稲葉をモデルにした刑事、諸星要一。彼は大学時代の柔道の実績を買われ、北海道警の警察官になる。正義感が強い諸星は、市民の安全を守るために職務を全うしようと心がけていたが、「刑事は点数。点数を稼ぐためには裏社会に飛び込め」という先輩刑事の影響を受け、どんどん道から外れていく。裏ルート、でっち上げで覚せい剤や拳銃を取り締まり、点数をどんどん稼ぎ出して「北海道警のエース」ともてはやされる一方で、ヤクザとの繋がりを深めていく諸星の実直さは、見る影を失っていく。

監督を務めたのは、『凶悪』で数々の映画賞に輝いた白石和彌。様々な問題作を世に送り出してきた、故・若松孝二監督に師事していた白石監督は、そのときの思い出を交え、「諸星にシンパシーを覚えた」と自分を重ねる。

「普通の刑事は生涯で(拳銃の違法所持を取り締まれる数は)5丁くらいだと聞きます。しかし諸星は、違法捜査ですが、100丁以上をあげた。それは相当な熱量がないとできないことだと思うんです。どんな組織にも共通していますが、上から『これをやれ』と指示されたら、下の者は簡単に『ノー』とは言えないじゃないですか。彼は、警察官として純粋に、点数をあげることが社会正義だと信じて行動していた。僕も学生時代から映画の世界に入り、若松監督のもとで勉強をさせていただきました。だから僕にとっては、映画こそが世界のすべて。若松さんが『ここで撮影するぞ』と言いはじめて、『監督、その場所は許可が下りないんです』となっても、「いいんだよ、お前! 映画を撮ることと、社会のルールを守ること。どっちが大事なんだ」と怒られるんです(笑)。そのとき選択するのが、やっぱり映画を撮ること。僕らにとってはそれが最高の正義だった。外から見れば狂気じみたものであっても、その世界に生きる当事者にとっては、信じて疑えないものがあるんです」

諸星役には、人気俳優・綾野剛。真っすぐに生きてきた男が、裏社会にどっぷり浸っていくまで熱演。ラストで見せる顔は、白石監督が言うように、まさに「信じて疑えないものがある」という絶妙の表情を作っている。

「この映画は綾野剛の力が大きい。柔道出身者特有のつぶれた耳を再現するために、綾野君は『ヒアルロン酸を打てば、(再現が)できるんじゃないですか』と言ってきて、びっくりしました。慌てて『いやいや、特殊メイクがあるから大丈夫だよ!』と。俳優部はこういう作品に飢えているんだ、と思いました」

前作『凶悪』で、残虐な殺人事件を犯した死刑囚の告発にのめりこんでいく記者を演じたのは、山田孝之。その山田と綾野はプライベートでも親交がある。いまや日本映画には欠かせない、主役級の俳優。このふたりには、どんな共通点があるのだろうか。

「ふたりとも役者馬鹿だと思います。だから、良い感じでライバル関係を築けている。今回の映画では覚せい剤を打つシーンもありますが、役者さんによっては『製薬会社のCMをやっているので、それは出来ません』と大人の事情でNGになる場合もあります。そういう制約が、映画にはよくある。たとえば車に乗って走らせるシーンでも、どんな状況であっても『車のCMがあるから、シートベルトをしなければダメです!』とか(笑)。でも彼らはそのあたりをちゃんとクリアにして、撮影に挑んでくれるんです。映画、ドラマで芝居をするために、この世界に入ったということが分かる。だからこそハリウッドのように、映画だけで十分な成功報酬を与え、役者さんたちをそれでちゃんと食べさせられるくらいのことを、やっていかなければいけないと感じています。綾野君や山田君のような俳優に応えるような映画を、僕たちはどんどん作っていかなければいけない」

映画『日本で一番悪い奴ら』は全国公開中。
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。