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『ONE PIECE』シリーズは、少年ジャンプの連載漫画を原作としているとあって、「友情・努力・勝利」をフォーマットに、とびっきりの娯楽性を追求しつつ、人間性をピュアに描き切っているアニメ作品だ。しかし、劇場版『ONE PIECE FILM GOLD』(公開中)は、その人間性を大きく狂わせる「金」をテーマに、苦みのある価値観が流れる内容となっている。

主人公のモンキー・D・ルフィの声優でおなじみの田中真弓は、今回の悪役ギルド・テゾーロの「金がないやつは支配される、自由はない」という台詞を用いて、こう語る。「お金について考えさせられる物語。一方で、劇中にもありますが、どれだけお金があっても手に入らないものもある。それに苦しむ人々の世界も、ちゃんと映しだされている。金銀財宝がたくさん持っていても、そこにパンが一つもなければ、買うこともできないし、どうにもならない。お金はすごく大事。でも、それをためこむだけためこんで、人生を終えていく姿にはどこか矛盾を感じるんです」

ルフィ率いる海賊「麦わらの一味」は、大富豪たちが集うエンタテインメントシティ「グラン・テゾーロ」にたどり着く。そこはテゾーロが支配する豪華絢爛な街。しかし裏側では、超格差社会がある。人々は、金に翻弄されて生きている。

「私は、演劇もやっています。演劇には常に、お金の問題が付いてきます。何トンもの水が流れ、火が出て、宙を舞うような、お金が掛かっている舞台はすごく楽しい。でも我々小劇場で活動する者は、いかにお金をかけずに、お客さんにどのように楽しんでもらえるかを考えなければならない。一昨年から『更地』というコント舞台に参加しているのですが、なぜ更地なのかというと、舞台には装置が何もないから。いつもアイデアで勝負をしている。お金をかけていないけど、確実にお客さんを引きつけている実感があり、手応えもすごくあります」

金がない人生は、自由を奪う。テゾーロはその想いで突き進んで来た。一方で、彼の生き様には、金があっても手に入らないものの代償も強調されている。それこそが、『ONE PIECE』の世界に根ざしている人間関係性の部分だろう。

「そうですね。人間関係の話という意味では、今回は女性同士の友情が描かれているところが新鮮です。“女同士”というのは、私が一番見たかったもの。『ONE PIECE』は、母親と息子の関係性をあえて希薄にしている部分がありますよね。どのキャラクターも、母親は少しだけ登場して、そして死んでしまうことが多い。(本作でも総合プロデューサーを務める、原作者の)尾田栄一郎さんに最近、『ルフィのお母さんって、実はどういう人なのですか。描かないんですか』と尋ねたことがあったんです。そうすると、『僕は、冒険を描きたいんです。少年は、母親から離れるから冒険が出来る。冒険の対義語は、母親ですから』とおっしゃられたことがあった。きっと、『ONE PIECE』を生みだす上でそこは譲れない部分なんだと思う。だからこそ、母親像ではありませんが、女性同士の物語に触れたことが私は嬉しかった」

金を使って、麦わらの一味をどんどん追いつめていくテゾーロ。しかし、ルフィたちもいつまでも黙ってはいられない。自分たちの命運を賭けた、まさにイチかバチかのギャンブルに打って出るーー。私たちは生きる上で、何度も分岐点に立つことがある。どちらに駒を進めるか。その選択こそ、ギャンブルである。田中自身も、そういった人生の賭けに直面してきたという。

「声優として『ONE PIECE』とこうやって出会えたことが、本当に幸せ。もちろん今も変わらず、演劇も大好き。私はもともと、声優になりたいと思っていたわけではありません。もう随分前のことになりますが、レギュラーで声優のお仕事をさせていただいていたとき、とある舞台出演のお話が来たんです。すごく興味があったのですが、それは全国公演が組まれているものでした。そちらを優先すると、声優のお仕事の方は降板・交代になってしまう。私は演劇に夢を抱いていたので、すごく迷いました。寝ずに悩んだ末に選択したのが、声優のお仕事でした。シビアな芸能の世界ですから、以来、その舞台演出家さんから声が掛かることはありません。だけど年月が経って、『ONE PIECE』と出会うことができました。あの選択をして、本当に良かったと感じています。誰もがいつか私のような日が来るはず。そのときはたくさん迷って、そして賭けに出て欲しい」

映画『ONE PIECE FILM GOLD』は全国公開中
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。