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2000年代より、関西では映画界のみならず、音楽、演劇、アートなど様々な界隈でその名前や顔が知られ、「よく見かける、ちょっと変わった文化人」のような存在だった、西尾孔志(ひろし)監督。

2013年、インディペンデント映画から本格的に舵を切り、平田満主演の人情喜劇『ソウル・フラワー・トレイン』で商業デビュー。全国規模での活動に切り替わり、翌年には、劇団子供鉅人とコラボした『キッチン・ドライブ』を発表。そして今回は、函館港イルミナシオン映画祭から委嘱を受け、脚本家・いとう菜のはさんが手がけた同映画祭シナリオ大賞受賞作『函館珈琲』の映画化を担った(公開中)。

「本作は、いとう菜のはさんの脚本ありきの映画。自分発信の企画ではないからこそ、職業・仕事として監督を依頼されるプレッシャーがありました。撮影には、『恋人たち』などで知られるベテラン・上野彰吾さんが努めてくださるなど、一流のスタッフが揃いました。今までは自分の知っているスタッフと映画を作ってきたので、その点でも大きな違いがありました。ただ、上の人たち、周囲の人たちが言うことをそのまま受け入れるのではなく、反発もしながら、時には頑固に『こういうことがしたいんです、こういう意味があるので』と伝えたり、考えたりした。そんな僕を、皆さんが大きく構えて受け入れてくださり、まさに全員野球で作り上げました」

物語の舞台は、夢を追う若者たちが集まるアパート・翡翠館。装飾ガラス職人、テディベア作家、ピンホールカメラ専門写真家が暮らすその場所に、古本屋の開業を考える青年がやって来る。家や暮らしをシェアする人々というのは、西尾監督の昨今の関心事の一つでもある。

「老後、自分がどのように生きるのか、リアルに考えることが増えてきたんです。僕自身、決してリアリズムの映画監督ではないのですが、今回の作品は、自分のこれからの生活にもリンクする部分があります。実は、今考えているいくつかの企画も、やっぱり世代や価値観の違う人たちがシェアハウスする話。『函館珈琲』に関しても、脚本を読んだとき、まず考えたのは、『今の30代、40代は、大人になることが何なのか、よく分からない。社会人になる勉強をどこですれば良いか、分からない』ということでした。この世代は、社会には出てしまったけど、何となく宙ぶらりんな状態で、将来が見えない。自分が大人になっているのか、分からない。シェアハウスは、そんな不安定な人たちが、明るく振る舞いながらも、助け合えるところなのかも知れない」

夢を模索する、若者たちの共同生活。それを支える、函館の町。そして、古本屋を目指す青年が淹れる、珈琲の香り。スローライフでマイルドな印象を受けそうな内容だ。しかし、西尾監督の意志でしっかりと軋轢を交えた。特に、古本屋の青年と、ガラス職人の女性のあるワンシーンは、妙な引っかかりを印象づける。

「いとうさんとディスカッションしたのは、脚本には函館の空気が描かれているけど、人物がぶつかり合わないところ。過去を独白して、赦し合うけど、対立がない。そうすると確かに、流れる時間は緩やかで心地良い。でも、僕はもうちょっとピリッとしなきゃいけないと思いました。未遂でもいいから、嫉妬の情や恋愛感情が欲しかったんです。それが、(劇中の)黄川田将也さんと片岡礼子さんのやりとりに繋がるわけですが。綺麗な入口を用意していますが、皆さんが考えているような出口にはなっていない。映画を観ながら、『自分がどこに連れて行かれるのか』と思って欲しいです」

映画『函館珈琲』は全国公開中
◇公式HPはこちら

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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。