このエントリーをはてなブックマークに追加
クリックして拡大

中島裕翔、新木優子が、7年に渡って想い合う男女を演じた映画『僕らのごはんは明日で待ってる』(公開中)。メガホンをとったのは、『箱入り息子の恋』で知られる市井昌秀監督だ。

「食」を交えながら、若い男女の関係を描いた本作。これまでの「食映画」の多くは、メニューをいかにおいしそうに撮るか、食の場面で鑑賞者の食欲をどれくらい煽れるか、そこにまず重点が置かれる。そのため、登場するのは自然食や手料理が多い。確かに、料理の作り手の顔が見える方が、ドラマチックに転がりやすい。しかし本作の真新しいところは、ファストフード、チェーン店フードを題材の一つにしている部分である。

「結果的においしそうに見えたら良いなとは思いましたが、でも意識的に『食べ物をおいしそうに撮る』という欲はありませんでした。むしろ大切にしたのは、亮太(中島)、小春(新木)の日常のサイクル。(飲食類は)ポカリスエットからはじまって、ガスト、ケンタッキーフライドチキンなどが出てきますが、ファストフードはすべて、日々のサイクルの中にあるもの。たとえば、コーヒーをおいしそうに撮るのではなくて、コーヒーの熱を伝えるような、そんな撮り方を心がけました」

タイトルも含めて「食」を押しだしてはいるが、決して「食映画」に分類されるものではない。それでも、本作のファストフード、チェーン店フードは、物語の対比的な役割を担っている。

一つは、ファストフード、チェーン店フードの味はいつになっても変わらないという点。亮太、小春は7年に渡ってくっついたり、離れたりする。立場も、高校生、大学生、社会人へと移り変わる。関係性や環境は時間とともに変わるものだが、ファストフードの味はいつまでも変わらないものだ。

「確かに、そうですよね。ファストフードには、リアリティがあると思うんです。味は変わらない。しかし、それを食べる側は、時間の流れの中でまさにいろいろと変化していく。何より、食べ方だって人ぞれぞれで変わっていくはず。亮太と小春がガストで話し合いをする大切な場面がありますが、そこでの小春の食べ方は象徴的。そういった時間の流れを汲み取って欲しい」

もう一つは、ケンタッキーフライドチキンで二人がデートするシーン。壁には、「本物は真似できない」というキャッチコピーのポスターが貼り出されている。その後、亮太と小春の間にある出来事が起こり、そんな折、えみり(美山加恋)という女性が現れる。

この三人の恋愛関係性が、「本物かどうか」がここで問われる。ケンタッキーのキャッチコピーが効いてくる。

「そう、あのキャッチコピーはぜひ観て欲しいところです。実は、あの場面でそこにポスターが貼り出されることは、撮影当日に知りました。装飾部の意図があったかどうか確認していませんが、偶然にもあのキャッチコピーがその後に生かされ、小春がケンタッキーを真似て、フライドチキンを作る。それを食べる亮太。油で手がぎとぎとになるけど、それでも亮太は…。本作は、『箱入り息子の恋』とは違って、性欲的な内容を描く必要はないと思っていて、潔くゼロにしていますが、ただあの場面では、唯一それを感じさせるようにもしています。よく観てもらうと、小春は亮太の服を着ていますし、『ということは…』なんです。男女関係の映画で、性は見過ごせない。描く必要はなくても、そこをハテナにして逃げ出すことはしたくなかった」

恋愛映画らしい決め台詞もなければ、ドラマチックな行動もない。だから、親近感のある話としてとらえることができるかもしれない。
「中島さん、新木さんにも、演技をし過ぎることなく、自分の中にあるものだけを出してくださいと言いました。日々、起きることの積み重ね。それが明日へと繋がっていく。そう感じられる物語です」

映画『僕らのごはんは明日で待ってる』は全国公開中
◇公式HPはこちら

The following two tabs change content below.
田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。