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沖縄県の慶良間諸島を舞台に、音楽で気持ちが結ばれていく人々の姿を描いた『島々清(かい)しゃ』(公開中)。メガホンをとったのは、2012年に100歳で亡くなった名匠・新藤兼人監督の孫・新藤風監督。2006年の『転がれ!たま子』以来、11年ぶりの長編監督作となる。

「私は29歳から6年間、祖父と暮らしていました。周りの同年代の人たちが、人生の土台作りを一生懸命していた時期、私はずっと祖父の仕事と生活のサポートをしてた。亡くなるまでの1年半は、まとめて6時間の睡眠をとれたのが3日しかなかった。祖父に合わせて生きていましたから。納骨を終えたとき、どこか自分に空っぽさを感じたんです。映画を撮る欲望、結婚や子育てをする欲望、それらの欲求を一度は捨てていましたから。そんなとき、磯田健一郎さんの脚本を読んで、そこに書かれていた『耳を塞いでいたら、いつまでも(音は)合わんさ』という台詞が、自分自身に言われている気がしたんです。『いつまでも逃げていたら望みは叶えられないよ』って。祖父は、作品に対する情熱を誰よりも強く持ち、石を投げられても顔を上げて歩き、100歳まで生きた。そんな祖父の姿と、この映画のヒロインの少女が重なった。祖父の様にありたいと思っていた私は、『やっぱり映画を撮りたい』という気持ちに負けました」

ヒロインの少女・うみ(伊東蒼)は、些細な音のズレも不快に思い、音楽はもちろんのこと、生活音にも敏感に反応してしまい、周囲とコミュニケーションをとれずにいる。しかし、自分を見失いかけて東京から沖縄へやってきた先生・祐子(安藤サクラ)、そして最初は仲が悪かった学内の吹奏楽部の生徒たちとの交流により、心の頑さを溶かしていく。

「当初、この映画を監督することを一度断りました。それは、当時の自分の自信のなさもそうなのですが、何より磯田健一郎さんが『遺作のつもりでホンを書いた』と知ったからです。磯田さんは音楽監督としても名作をたくさん手がけていらっしゃいますが、今回の物語は、磯田さんが関わってきた音楽の世界の人たちへの恩返しの気持ちが発端となっていて、そんな大事なものをすべて出し尽くしている作品を、一緒に作れるのだろうかという不安がありました。でも、映画のテーマとなる沖縄民謡『島々清しゃ』は、生まれ島への思い、当たり前にある風景、日常の美しさを歌った曲。そのなかで悲しみ、苦しみ、どんなことがあってもたくましく生きていく人たちの話。いろんな迷いを持っている私を原点に立ち返らせてくれる気がしました。まさに、安藤サクラさんが演じた祐子先生みたいに」

映画監督としての時間がストップしていた、新藤監督。しかしこの映画をきっかけに、時計の針が動き出しそうだ。

「『転がれ!たま子』はまだまだ“私”が強かった作品。それ以前の『LOVE JUICE』なども、自分の脚本作だったので気楽さがあった。でも、今回は磯田健一郎さん、安藤サクラさんはじめ、いろんな方の想いに寄り添って作ることができたと思うんです。脚本をいただいて、その中で何がもっとも大事なものなのか、それをどう人に伝えるのか。日々闘いでした。あらためて、映画監督としての責任を感じながら、お仕事をさせていただきました。この経験を、今後の映画作り、そして人生にも生かしていきたいです」

映画『島々清しゃ』は全国公開中
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