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12年間に渡ってアルツハイマー病を患った大切な妻に寄り添って暮らした男性の物語『八重子のハミング』(公開中)。シネ・リーブル梅田(大阪市)で本作の舞台挨拶が行われ、出演者の升毅、辻伊吹、佐々部清監督が登壇した。

司会者から「この映画は本当にお金がなくて…。ご覧になった皆様が宣伝してください」と呼びかけたように、本作は佐々部監督自ら、物語の舞台でもある地元・山口県の企業や個人に出資を頼み込んで完成。佐々部監督は、「初めて原作を読んだとき、涙が止まらなかった。映画化の企画はすでに他で進んでいたのですが、(その話が)なくなったと聞いて、『自分にやらせて欲しい』と手を挙げました。でも、テレビ局などは(製作費を)出資してくれず、誰にも振り向いてもらえなかった。4年がかりでコツコツと企業、個人をまわって作りました」と長い道のりを振り返った。

升にとっては、40年近いキャリアの中で初の主演映画。思い入れの深い一作を引っさげて地元・大阪に凱旋。温かい拍手と「お帰り!」の声に迎えられて、升は「観ていただいて…」と声を詰まらせ、目頭を押さえた。「素敵なお話に参加ができて、嬉しくてたまりませんでした。こんなに優しい男性の役を、僕なんかが演じて良いのかと思った。今も実在する方なので、演じるとなると、どうやっても嘘になる。しかも山口ではドキュメンタリー番組を作られているんです。役作りのイメージがつかめないまま、撮影に入っていきました」と悩みながら芝居したという。

『種まく旅人 夢のつぎ木』(2016)に続いて佐々部監督作に出演した辻は、「日本アカデミー賞監督だし、強面なので最初は怖かった」と本音で場内を笑わせ、「でも実際にお会いするとすごく優しい。育てていただいて、ありがたく思っています」とベテラン監督に感謝。

地道な活動を積み重ねて出来上がったこの映画は、この舞台挨拶回だけではなく、以降の通常上映回も早々に満席に。劇場内は、主人公夫婦と同世代が大半を埋めている。佐々部監督は、「最近は“壁ドン映画”ばかりなので、大人のための映画を作りたかった。(特別に)若い人に観てもらうためのアプローチはしていません。悔しかったら、若い人も観に来いよと思っています」と独特の言い回しで映画をPRした。

映画『八重子のハミング』は全国公開中
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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。