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芝丸山古墳。東京タワーのふもとに古墳があることを御存知だろうか。東京に四半世紀も住んでいながら、わしはいにしえの王様(女王かもしれない)の墓の存在を知らず、素通りしていたのだ。それも、古墳の中ではもっともスタイリッシュな前方後円墳らしい。燃えるではないか。

港区内に「芝公園」は二カ所に分断されている。そのうちの一つにその古墳はあった。何も知らなければ、ただ激しく車が行き交う大通り添いの公園に過ぎない。ベンチでは、ぽつりぽつりと膝の上で弁当を広げる人の姿。近隣で会社勤めをする人の、ランチスポットのようだ。盛り上がっているかと言えば、ほぼ静寂。


芝公園内にある芝丸山古墳。墳丘の長さは125メートル、
または106メートル前後と言われている。結構、長い。

心を古代にタイムスリップしてみる。遥か昔、人々はこの地で狩猟をし、雨乞いをし、吉兆を占い、結婚をし、子を育て、出世のために王に気に入られようと小競り合いを繰り返し、時にはゲスフリンなどしてつるし上げをくらい、罰則として意味もなく穴を掘るなどの肉体労働、また王座を狙った下克上では、百倍返しだ!などというキメセリフが流行。と、現代とさほど変わらぬ太古の日常を想像していると、ささやかな案内板を見つけた。

文字が半分以上はげている。辛うじて読み取ったのは、古墳の下には貝塚があるということ。しかも詳しいことはわからない、とぶん投げた感じでまとめてある。

わかったことは貝塚の上に、王様は葬られていること。
「王っちの墓どこにする?」
「めんどいなあ。あ、ここここ、貝がいっぱいつもってて、ちょうどもっこりしてるしいいじゃなーい」
「お、貝のベッドか、そりゃいいね」
そんなところだろうか。

園内からゆるやかな丘に続く土の階段をのぼると、視界が開け、ぽっかり森に迷い込んだようなムードに、思わず深呼吸する。おもむろに虎の石像があった。

その横に立ち、ポーズをとっているのは白人の少年で、ブロンドヘアの母親らしき人が記念撮影中だった。

彼らが、古墳や貝塚をどこまで理解しているかはわからないが、都会のオアシス的なこの空間を貴重なものだと感じているのはわかった。古代が、たまさか残した墓が「おもてなし」をしている。

白人親子に話しかけられた時のため、貝塚を英語でなんと言うかスマホで調べてみた。シェル・マウンド、らしい。結構、まんまだ。古墳は、エンチェン・トゥーム。白人親子と目と目で微笑みあう。古墳にはわしを含め3人しかいなかった。

燃えるようなサプライズはないが、一人になりたい時、現代を捨て古代と交信したい時になどに、おすすめのシェル・マウンド。

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