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生まれて初めてICUというものにお世話になった。原因は世間様に申し訳なくて出来れば言いたくない。食あたりだ。

長年、光り物の生魚をこよなく愛してきた。そこらのクジラに負けないくらい食してきたと言ってもいい。その夜も自家製なめろうを作り、堪能した。

数十分後、頭が噴火したように熱くなった。そのうち体がジンジンし、やがて顔が岩壁のごとくかちこちになっていくのがわかった。
「ユー、やばくない?」

わしの顔が岩壁化していく様子にどん引きしているハズバンドに、
「ご、ごめんなさい、わた、わたし、あじのきももたたいてなめろうに、ごめんなさあいうわーん」的なことを叫んだような気がする。リアルに身の危険を感じていたのだ。


タクシーで向かった救急の窓口で、わしを見るなり、受け付けの人が大慌てでポリ袋を握らせた。ベッドに横になると、医師や看護師さんがざわつき始めた。
「緊急投与!」(正しい単語は覚えていない)
というような声が聞こえ、両腕に高速で点滴(注射?)がイン! 鼻の両穴にも何やら管がつけられた。ベッドのまわりをぐるりと囲む白衣の円陣。

わしは悶絶しながらハズバンドに今生の礼を、そして父さん母さん、今までわしと出会ってくれた皆様に心で感謝と詫びを繰り返しながらも、出てくる単語はただ一つ、
「OE~(涙目)」
点滴がきいてきたのか、間もなくふうっと眠りに落ちた。

「うおおおお」
という男の人の声で目が覚めた。

「シネッシネッコロスゾ~」
という穏やかではない雄叫びが続いた。

第二の救急ゲストのようだ。
わしを包囲していた人たちはニューカマーへと移動。
「ここは病院ですよー」
「シネシネコロス~」
彼は今、大きな剣をにぎり見えない敵と戦いの真っ最中の様子。
「悪いようにはしませんよー」
「カクゴシロ~」
敵の玉座まであと一歩か。
「大丈夫ですからねー。着替えますよ」
「マテコラアオボエテロヨー」
見えない敵が退散したらしく、シーンとなった。

仕切りの向こうから、彼の搬送の経緯が聞こえてきた。シネシネ男は、夜遅くにカラオケボックスに友らと来るも、連れは帰ってしまい、気づくと一人で歌を熱唱。その後、床に突っ伏しているのを店員に発見されこちらへ送られてきたらしい。

かなしい。なんてかなしい宴のなんだ。明日の朝目覚めたら、シネシネ男は何を思うのだろう。友に見捨てられたオレ。たった一人で歌い続け、見えない敵と戦い続けたオレ。

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