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 曳舟駅の改札を出ると、早速細い路地を縫うように歩く。前に一度だけ歩いた事のある場所。それでも、何となくの土地勘でどうにかなるもので、大通りに出て向かい側を見ると、目指していた商店街の入口が現れた。鳩の街商店街。

 ここは、この隅田川デプレの初期、まだ下町歩きも慣れていない頃に、ネタを探すために必死で歩き回っているうちに見つけた商店街だ。その時初めて訪れた場所なのだが、同時にとても思い出深い場所でもあった。というのは、高校1年生の時、NHKで連続ドラマの主演をさせて頂いたことがあり、その舞台がこの鳩の街だったのだ。私の役名は池田まり子で、木の実ナナさんの本名。つまり、鳩の街で生まれ育ったナナさんの少女時代を演じさせて頂いたのだ。街のシーンは、当時を再現したスタジオのセットの中で撮影されたので、私は実際の鳩の街へは来たことがなかった。だが、この連載が始まったことで思いもよらず再会し、当時の記憶があふれんばかりに胸に蘇ったのだった。

 鳩の街は、戦後の10数年間、1958年の売春防止法の施行まで、赤線と呼ばれる色町だった。ドラマの中にも艶かしいスリップを着た女優さんが登場し、制服を着た私も共演していたわけだが、正直、あのドラマの撮影の時にその衣装や赤線という言葉の意味を、私は正確には理解してなかったと思う。それが、この連載で実際の鳩の街に出会い、一本はずれた路地裏を歩きまわり、文献などを漁ってみて改めて、というか、ようやく鳩の街がどんな場所だったのか分かった気がした。
  路地裏には、カラフルなタイルばりの壁や、肉感的な丸みを持った柱、真鍮の手すりが斜めに取付けられているモダンな扉などが残っていて、耳を澄ませば、蝉の鳴き声の向こうに、ここで暮らしていた女たちの話し声や、通ってくる男たちの足音が聞こえてきそうだった。


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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/