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 太陽が沈んでから30分ほどだろうか。午後6時7分、浅草神社内の照明がすべて消され、辺りは青い闇に包まれた。低頭を促されると、それまで拝殿の目の前に立って奥で行われている儀式に目を凝らしていた私も、自分の足元へと視線を這わせるしかない。もっとも、顔を上げてもこの暗さではもう何も見えないだろう。ここからは一切の撮影も禁止だ。

「オォォォォォォォォォォォ」
本殿の奥から男性の低い声が聞こえてくる。ぞくっとした。人の声なのに、どこか人を超越した感じの不思議な声。危険を知らせるサイレンのようでもある。

「オォォォォォォォォォォォ」
「オォォォォォォォォォォォ」
暗がりで頭を垂れたまま、その声を3回聞いた。こうして、浅草神社のご祭神、土師真中知命(はじのまつちのみこと)、檜前浜成命(ひのくまはまなりのみこと)、檜前竹成命(ひのくまたけなりのみこと)の三柱が御霊代(みたましろ)へと移られた。

 3月17日。この夜、浅草では「浅草神社宮神輿 堂上げ 堂下げ」という特別な祭りが始まったばかりだ。浅草神社宮神輿といえば、当然、三社祭で活躍する三基の大きな本社神輿のことで、それらがこの夜「堂上げ」、つまり浅草寺の本堂へと上げられる。 そう、この祭りは神社と寺とが協力して行われる、現代では珍しい神仏習合型の祭りなのだ。

 ほどなく、白い装束に身を包んだ神職たちが「オォォォォォォォォォォォ」という声とともに、拝殿から階段を下り表へ出てきた。玉串を持つ方、声を出している方に続いて、木の箱(唐櫃)を抱えた方が階段を下りてこられた。あの箱の中に、今三柱の神様がいらっしゃる。そう思うと両方の二の腕を鳥肌が駆け上がった。 神職たちはそんな私の前を通って神輿庫へと向かう。列の後方には、僧衣に身を包んだ浅草寺の僧侶たちの姿もあった。

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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/