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 午後1時に地下鉄有楽町駅から地上に出ると、ビル風もなく、うららかな春の陽気と週末の華やかな賑わい。さあ、買うぞ〜!と、鼻息荒く横断歩道を渡ると、そこはもう本日の目的地、東京国際フォーラム地上広場。毎月第一、第三日曜日に開催されている大江戸骨董市の会場だ。
 鼻息は荒いものの、それらしいものと言えば10数年前に世田谷ボロ市に行ったことがあるだけの初心者。しかも、とてつもなく寒かった印象しか残っていない。一方、テレビや雑誌で見かけるヨーロッパのノミの市は、開放的な雰囲気で、並んでいるものがいちいち洒落ていて、時々ゴッホ級の画家のデッサンなどが紛れ込んでいたりする、宝探しのようなイメージだ。期待し過ぎは良くないと思いつつも、私はいつの間にか大江戸骨董市にもそんなイメージを重ねながら向かっていた。
 会場に足を踏み入れると、大層な賑わいである。各店の前や通路には人がいっぱい。まずは、その人の多さが心強い。慣れない骨董品を前に、お店の人とマンツーマンでは商品に手を伸ばすことすらためらわれる。
 青年、壮年、中年、老年と、客層も色々。よし、こりゃ馴染める。
 また、お店が多いというのも頼もしい。なんと第三日曜日の今日は、250店舗も出ているのだそうだ。これだけあればきっとお目当てに出会えるに違いない。そう、「何かイイもの買えるかな〜」というノリでは、大量の骨董品の中から1〜2点選ぶのは困難だろうと想像し、私は、来る電車の中で、花瓶に狙いを定めることにしたのだった。しかし、それ以上の策はない。足で稼ぐのみ。とりあえずは、下見を兼ねてざっと見て歩くことにしてみた。

 が、歩き始めたそばから、立ち止まってしまった。それは、ソムリエナイフの並んだ一角。その中には、フランス製シャトーライヨールのソムリエナイフもいくつかあった。それは一時、私が本気で買おうかと悩んだことのある品物だ。う〜ん、この優雅な曲線、欲しい。付けられているのは5桁の値札。なるほど、古くてもそれくらいはするんだろう。しかし、例えば、この値札に少々過剰な額を書かれていたとしても、私には全く分からない。ふと店主の顔を見てみる。否、人を疑うのは好きじゃない。主催者もしっかりしてそうだし。しかし、この使用感の漂うソムリエナイフに5桁の金額を支払う勇気があるか。しばし自問自答。あぁ、この辺りが今日一日つきまとう、もっとも悩ましい課題だろう。目の前のものが果たしてその金額、または今の私に相応しいものか、知識や経験がないと分かりようがない。強いて言えば、好きか嫌いか。いや、大好きかそれ以外か。大好きならば値段なんて関係ない!失敗したって構わないじゃないか!・・・とも言い切れない私。とほほ。しかし、なんとか1つの結論にたどり着いた。そう、今、私にライヨールのソムリエナイフは必要ない。家にあるもので事足りているではないか。そうだ、私の今日のお目当ては花瓶だった。その言葉は、頼もしい心の道しるべとなり、私を次の店へと向かわせた。


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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/