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去年の今日、まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかった。とはいえ、あの時書いた原稿に、しきりに「何かある!」と書いていた自分に改めて驚きを憶えてしまう。一体何を感じていたというのか。

今、左肩に激痛をもたらす重みを受けながら「っしょーい!っしょーい!」と声を張り上げ、一歩、また一歩と足を踏みこませる不思議な力。私は一年経ってここに戻ってきてしまった。しかもこんな形で。何かに吸い寄せられる様に。

平成22年5月16日、日曜日。

近頃ずっと不安定な空模様が続いていたのに、今日は20度前後の気温にすっきりとした晴天。浅草は三社祭の最終日を迎え、祭りのクライマックスへ向けて静かな興奮の中。午後4時をまわった頃、本社神輿三之宮は東部の各町会を巡り、猿若町内渡御を経て聖天町へと向かってくる。

神輿の受け渡し地点である言問橋西の五叉路からは、隅田川の向こうに建設中の東京スカイツリーが見え、今年ならではの背景を作り出している。

髪を高い位置でまとめ、白い半だこに地下足袋。そして、赤い帯でとめられているグレーの半纏には「聖天睦」の文字が染め抜かれている。きっとここにいる誰も、私がこの文字にこんなに心躍っている事を知らないだろう。

辺りには、それが当然という、町会の人たちばかり。私は、お囃子の音が近づいてくるのを、舞い上がってどうしようもない心をなだめるように聴いていた。
それにしてもこんな幸運があるものか。もはや三社祭にどんな歴史的背景や意義があろうが、「そんな小難しいことはどうだっていいやぃ」と、言い放ってしまいかねないほどだ。
いや、去年の取材で自分なりにその素晴らしさと魅力については心得たつもりでいたし、何よりあの夜、バリケードの固く冷たい網の目からはるか向こう、浅草神社の鳥居をくぐって行く三つの本社神輿を見送る時、全身に滲みるほど感じた虚無は今も忘れがたい。

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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/