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薄明の中、それも朝日が昇る前の白々とした光の中に咲く梅の花を、私は見たことがない。 いや、子供の頃、早春の庭に梅の花が甘く青い芳香を放っていたのだから、それを学校や塾帰りの薄暮の中で見ていたこともあったかもしれない。

けれど、これほどまでに冴え冴えとした世界を作り出す薄明は、私の記憶の中にはない。これは世界が寝静まった深夜の、月光、だろうか。そう思って射すくめられたように佇んだのは、東京丸の内にある出光美術館の琳派芸術展、酒井抱一の「紅白梅図屏風」の前。

2つの屏風にはそれぞれ、成熟した雰囲気を漂わせる妖艶な紅梅と、まだかたい蕾を多くつけた清楚な白梅とが描かれている。そして、絵師・酒井抱一の創作を語る上で欠かすことのできないのが、この紅白梅図屏風を含む銀屏風である。

琳派と言えば、絢爛な桃山文化を背景に京都で生まれた優美な日本美術の系譜であり、俵屋宗達や本阿弥光悦らが創始者として知られている。その琳派の中でも複数の絵師に描かれている「風神雷神図屏風」や「八橋図屏風」といった画題は、ある温もりや時間帯すら感じられるような金屏風に描かれていて、私の中ではその明るく装飾的な印象がまた、琳派のイメージと重なっていた。

それもあって、正直なところ紅白梅図屏風を見るまでは、銀の屏風と言うものにピンときていなかった。ところが、目の当たりにしたその紅白の梅の凛とした姿は、琳派らしく瀟洒で、詩的な情緒さえ充満していた。

・・・なんて、さも知ったことのように書いてみても、実は私は日本の美術についてようやくここ1〜2年ほど前から興味を持ち始め、入門書を読みあさったり、美術館や旅先の京都のお寺などで見るようになったというレベルだから、日本の画壇について文章を書くなんておこがましいことこの上ない。身の程知らずもいいところだ・・・

けれど、私には書きたい理由はある。
そう、好きになってしまったのだ。好きなものについて想いのたけを語りたくなるのはどうしようもない。

なので今回は(今回も?)読者の皆様に、今私の好きな自慢ばなしにお付き合い頂くことになる。というか、ひとつ好きになったら数珠つなぎ的にあっちにもこっちにも惚れっぽくなってしまうらしい。

宗達、光悦、光琳、乾山、其一・・・琳派芸術展では目移りしっぱなし。

ともあれ、私は誰よりこの江戸で花を咲かせた酒井抱一と言う人のことを知らなくてはならない気がしていた。

◆歩いたマップ(作/諸岡なほ子)


より大きな地図で 酒井抱一の足跡 を表示
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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/