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この春、私は東京の東側を離れることになった。そのため、溺愛してきた隅田川周辺の東京下町は、今後、栖(すみか)から訪れる場所へと変わる。

いつかそんな日が来るのだろうと思っていたが、来てみるとやはり隅田川を眺める目にも感傷的な何かが紛れ込んでしまう。東京低地のこのあたりは埋め立てられて出来た土地が多いため、深い森や緑の山がないかわりに、少々高い場所に登ると視界を遮るものも少なく、遠くまで見渡す事が出来る。

これまで私の住んでいたマンション5階の部屋からも、平らな土地の上に東京タワーやスカイツリーがチェスの駒のように等しく見渡せたし、ひと夏に隅田川や東京湾、江戸川や浦安の花火大会まで見る事が出来た。また、お正月には富士山のきりりとした姿も望め、一緒にいた両親も大喜びだった。

そう言う土地柄のせいで江戸時代には火事が多かったように、どこかに火がつくとそれは水平方向に、波紋のように伸びて行ったのだと思う。流行も疫病も祭りの賑わいも。
その中に身を寄せあいながら、逞しく賑やかに生きていたであろう江戸町人たちの姿が、下町に住んだこの数年間でかなり鮮やかに見えてきたような気がしている。
文献や取材によるところも小さくはないと思うが、何より土地の持っている記憶や、祭りなどへ実際に参加した事が、私の身体感覚を通して何かをダイレクトに伝えてきていたのだと思う。

景色も時代も全然違う今の東京で、江戸の町人たちと身体感覚を共有する事は、中々難しい事のように思われるが、私は下町を離れる前にもう1つ、とても確かな身体感覚で下町を感じられる機会を得た。それは、ある意味「灯台下暗し」とでも言おうか。
私ではなく、下町を全くと言っていいほど知らない人物のアイデアに、思わず膝をポンと打ってしまうほど魅了され、今回の旅を決めた。 アイデアを出したその人物は、そのままこの旅の同行者となった。

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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/