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 大人なら誰にも、どうにも受け入れがたい真実がひとつやふたつはあると思う。忘れることはあっても、それが減ることはない。何かで相殺されるようなものでもない。
 だって、自分の心を覆っている何枚もの皮膜をはがしていくと、いつかは暗い闇にぶつかってしまうのだから。

 その闇が、ある時は知的好奇心として、ある時は悲しみの収集家として、ブラックホールの様に手当り次第に情報を吸い寄せてしまうのだ。だから怖い。いつか自分が、途轍もないものを引き寄せてしまいそうで。

 ・・・と、近頃、時々直面してしまう自分の中の自分じゃないような何かについて、そんな風に考えていた。抽象的な表現は余り好きではないけれど、でも、まだこんな風にしか表せないものが、確かに私の中にあるのだ。


 そんな折、心にメスを入れるような作品に出会ってしまった。

 貴重な公演だからと知人に誘われたのは、来年立て替えの為に取り壊されてしまう歌舞伎座の、さよなら公演として行われていた六月大歌舞伎。

 とりわけ片岡仁左衛門の『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』は、初演以来彼の出世作、代表作とされてきた演目だ。しかし、彼はこの当たり役である若い男・河内屋与兵衛の役を、年齢を重ねてしまった今となってはもう演じまいと考えられていたのだそうだ。

 役者にとっての老いとは、一体どういうものなんだろうとつい考えてしまう話だが、今回、歌舞伎座さよなら公演に向けて周囲に懇願され、「一世一代にて相勤め申し候」と言うことになった。

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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/