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「夕立を四角に逃げる丸の内」
これは、ダジャレ好きな私が作った川柳ではなく、現代の高層ビルの間を小走りするOLの姿を詠んだものでもない。江戸時代の古川柳だ。
 「丸の内」とは、江戸城の曲輪の中=丸の内側からきた地名。太田道灌以来の寂れた江戸城を徳川家康が大修築し、東京湾に面した近くの漁村も江戸城外郭にどんどん取り込んで行った。こうして、丸の内は十万石以上の大名屋敷が立ち並ぶ屋敷町となったのだ。これらの多くの屋敷が、長く白い塀をめぐらせていた為に、夕立に降られると道ゆく誰もが四角く塀に沿って逃げなくてはならなかった。それがこの川柳だ。
 雨に濡れないよう、傘をさしながらカメラを構えるという手元の煩わしさに気をとられつつ、上の空で写真を撮る私の頭の中に、最近本で読み直したばかりのそんな川柳が浮かんでいた。
 濡れそぼるレンガの褐色。重そうなスレートの黒。シンメトリーで理性的な形を持つその建物は、鋼色の空の下でじっと何かに堪えている、あるいは何かを待っているようにも見えた。保存復原工事を終えた東京丸の内駅舎の全景を私がようやく目にしたのは、10月下旬の冷たい雨の夕方だった。

 橙色の電車が終点東京駅のホームに滑り込むと、レンガの建物は目の前にあった。そうか、こんなに近いのかと改めて思う。駅舎とは分かっていても、その中のあの素敵なホテルが、線路のすぐ隣にあるというのがイメージできていなかったせいであろう。ホームの一番奥には、目線より少し高いところに丸の内駅舎復原のシンボルであるドームも見え隠れしている。
 ただでさえ私をワクワクさせてくれる東京駅。そのセントラルステーションとしての面立ちと、数々の文豪が愛した老舗ホテルの趣を、ようやくこの目で見る事ができるのだ。
 中央線のホームから長いエスカレータを下ると目の前に丸の内南口改札がある。そこから既に印象が変わっていた。とにかく工事中の丸の内口は、ブルーシートが見えたり目隠しの為の高いボードが設置されていたりと、歩きにくいほどに雑多だったが、今や改札をくぐる前から何か華やかな世界がこの先に広がっている事を予感させる。


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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/