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 それは千貫神輿と呼ばれるだけあって、間近に見るとかなりの迫力だ。とにかく大きい。そして、美しい。張り出した屋根の大きさの分だけ胴体とのメリハリが効いて、存在感が際立っている。イイ神輿だなぁ〜などと、ご隠居さんのような気分で目を細めてしまう。
 「築七」から「築六」に受け渡された築地一帯の鎮守、波除稲荷神社の宮神輿は、午後1時10分、時間通りに担ぎ上げられ、足踏みをするような遅々としたペースで町内を進み始めた。辺りでは子供たちが水風船をパシュパシュとついて遊び、大人たちも顔見知りが多いと見えて和やかに話などしながら神輿について行く。
 今年の「つきじ獅子祭り」は3年に1度の本祭りではなく、陰祭り。その為、この神社神輿一基のみが氏子町会を練り歩いているのだが、これが本祭りとなると、重さ1トンもある巨大な獅子頭なども一緒に築地の町を練り歩くという。人出も随分違うのだろう。正直、ここに来るまではその獅子頭の渡御を見てみたいと思っていたが、この、銀座にほど近いとは思えない、小さな村の祭りのような雰囲気も悪くない。

 築地六丁目には戦災を免れたと言う古い町屋が残っている。神輿から少々は慣れ、それを見物&撮影していると、突然おまわりさんに声をかけられた。

「暑いから、日陰に入ってた方がいいんじゃない?」
「あ、はい。」

交通整理の為に立っていらっしゃるおまわりさんこそ日向で暑いだろうに。私は、どうもどうも、と軽く会釈しながら近くの街路樹の陰に逃げ込んだ。すると、その足元にアジサイの大輪がたくさん開いている。わぁ、綺麗と思わずカメラを構えると、

「こっちこっち、こっちの方がすごいよ」 と、今度は青い半纏を着ているおじさんに声をかけられた。
「え?どっちですか?」

4〜5メートルほどその背中についていくと、隣の街路樹の下にも大輪のアジサイが。

「不思議でしょ。これ、同じ根っこなのに色が違うんだよ。」

確かに。同じ株なのに、真ん中の蕾の色が違う。片方は緑系、片方は紫系。カメラを構えながら、すごいですね〜と振り向くと、そこにはもう誰もいない。背中の「波除」の文字を揺らしながら、おじさんは歩き去っていくところだった。なんだなんだ?おまわりさんも半纏のおじさんも人懐っこいのに随分あっさりしている。これが築地気質なのか?

 そんな事を思っていると、やがて出桁造りの古い商家(店舗兼住宅)の前に、笛太鼓を響かせながら山車が滑り込んできた。後方からは宮神輿もやってくる。賑やかにお酒を持って笑う人や、半纏の裾から彫り物が見え隠れしている人などが行き交い、段々と下町のお祭りらしさを纏ってきた。この先で、神輿渡御の最後の町会、宮元へと神輿が引き継がれる。


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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/