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 鉄板からは、うっすらと白い煙が上がっている。そろそろだな。ラムネでのどを潤してから、お椀を左手で水平に持ち、桜えび、鰹節、アスパラ、ベーコン、そして大量のキャベツなどの具材だけを、スプーンでスライドさせるように鉄板へ落とす。ジューッという音とともに水分が蒸発してくると、近づけていた顔面をもわっと蒸気が覆う。それから、大きなはがし2枚に持ち替え、具材を大胆にこねまわしながら炒める。
炒めて、炒めて、キャベツがしんなりしたところで、一旦具材を真ん中に集め、その中央に穴をあける。穴を徐々に広げて、まあるいドーナツ状の土手を作り、お椀の中に残っているサラサラの生地をスプーンでかき回し、流し込む。流しながら決壊しそうな箇所があれば、おっとっと、と土手をならして補強。食べ物を調理すると言うよりは、子供の頃の砂遊びに近いこの楽しい感覚。しかし、土手の中の生地にソースや味の素で味付けすると、段々それらしい香りが漂い始め、食欲が刺激されてくるのだ。

最後に、折角作った砂の城を豪快に自分の手で壊すように、鉄板の上の土手と生地をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせる。土手の造成と破壊・・・もんじゃづくりはまるで土木工事のようでもある。そして、キャベツを叩き刻むようにしながら火を通し、それを鉄板に大きく広げ、ぷつぷつと生地全体を押し上げるように気泡が湧いてくると、ようやくもんじゃの食べごろが近づいてくる。

 一時、お台場や汐留、葛西などの再開発が進んだ頃に、ウォーターフロントと言う言葉がもてはやされた。都心へのアクセスに優れ、オシャレな高層マンションが立ち並び、キラキラ光る街や海の夜景を独り占め。そんなモダンなイメージが喧伝されていた。そして、それに対して私がモヤモヤと抱いていた違和感をするりと流してくれたのが、ある人の言葉だった。「今さらウォーターフロント、ウォーターフロントって言うけど、江戸を直訳すればウォーターフロントなんだからさぁ」と。まさに。月島にて、佃の高層マンションと今も残る長屋との対照的な風景を眺めていると、いつもそんな言葉を思い出す。

 海に近いということは、水運に優れている低地であることが多いわけで、そう言う場所には決まって職人や商人が集まってきた。そう言う活気にあふれた下町情緒こそが、月島や佃の辺りにもともと描いていたイメージだ。ウォーターフロントと言う響きには違和感を感じてしまう。しかし、隣り合っているこの佃と月島を、一緒くたににどこか見ていた私の認識もまた少々間違っているのかもしれない。というのも、佃は隅田川河口にもともとあった砂州の上に築かれた島(佃島)であり、月島は明治期になってゼロから作られた埋め立て地。土地のなりたちが違うのだ。

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諸岡 なほ子
諸岡 なほ子
福岡県大牟田市出身のタレントで、現在、一児の母。作詞家(MONA)としても活動。趣味は読書、散策、落語鑑賞、お祭見物&参加。世界遺産検定2級取得。TBS系「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、MBS「住人十色」訪問者など多数出演。著書に『地球のどこかの秘境から』(実業之日本社)。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/nahoko/