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2012年10月22日配信

『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』などで怒濤の快進撃をみせている園子温監督。もはや快楽的で絶頂感すさまじいバイオレンス描写、また実録殺人事件はじめ過激な題材で観る者を熱狂させてきた。「園子温と組めば間違いない」「一緒にタブーに挑戦しましょう!」とこの稀大のヒットメーカーに威勢良く近づいてくる映画業界人が多いのも、うなづける。だがそんな彼らも腰が引けたテーマ、それが今回の映画『希望の国』(公開中)の原発問題だ。

20XX年、日本の長島県(=広島、長崎、福島を想起させる架空の街)で起きた大地震、それに続く原発事故。半径20キロ圏内は警戒区域に指定され、わずか道ひとつ隔てただけで避難区域外にされた、ある家族。国家への不信感、目に見えない放射能の恐怖、そんななかで芽生える新たな命。絶望と苦悩の暮らしのなかで、家族はなんとか希望を模索する。

「(アーティスト集団の)Chim↑Pomはじめアート、文学界からは、原発について(作品として)たくさん発信されているにも関わらず、日本の劇映画からはなかなかそれができていない。くわえて、2011年夏頃から徐々に問題に対する意識が風化しつつあり、『これは早く発信しなければいけない』と思った」という園子温監督。

だが「原発事故を描く」となれば、出資などに対して慎重になる関係者が多いのは、いまの日本では「当然」かもしれない。それでも、これまで何度となく「当然」の概念を打ち破ってきたのが、園子温監督だ。「日本の会社からもいくつか話は来ていましたが、やはり時間がかかりそうだった。そんなときイギリス、台湾からの協力を得ることができて、公開までこぎつけました。先程も話したように、とにかく『希望の国』は早く作って、早く観せなければいけない問題を扱っている。僕の映画はよく『賛否両論』と言われますが、そんな意見は今回に関してはどうでもいい。従来の映画の役割とは違いますから。まず、行動しなければならなかった。だから、じっくり腰をすえて『さあ、新しい映画を作ろう』では遅い。これからの原発再稼働に向けての緊急上映にしたかったんです」

タイトルが示す「希望」は、果たして見つかるのか。この物語は、決して安易にその答えを提示していない。政治家は国民無視の利権争いに明け暮れ、テレビでは視聴者に届かない自己中心的なバラエティー番組ばかり。ぬるい平和に浸りきった、かつての日常にまた戻りつつあるのではないか。違和感は尽きない。『希望の国』のラストは、原発に絡んださまざまな話題が風化することの怖さを、後味を引きずるかたちで苦味をもって伝えている。

「観終わったあと『良かった、良かった』と思えるハッピーエンドには絶対にしたくなかった。現実に対して嘘をつきたくないからです。僕も福島を取材するなかでいろんなものを見たり、聞いたりしてきました。報道されていない出来事もたくさんある。映画に盛りこめなかったところは、小説(リトルモア刊『希望の国』)にも書きました。小細工して、ねじまげて伝えたくないんです。スリル、サスペンス、煽りを排除して、とにかく冷静に物事を描くようにした。だから、この『希望』という言葉を文字通りとらえるか、皮肉と思うかは自由。『希望の国』を観て原発問題について、感情や想像をもう一度呼び起こして欲しい」

◆園子温監督プロフィール
愛知県出身。1987年『男の花道』でPFFグランプリ受賞。1990年、PFFスカラシップ作品『自転車吐息』がベルリン国際映画祭正式招待。近年は『愛のむきだし』(2009)、『冷たい熱帯魚』(2010)、『ヒミズ』(2011)などヒット作が続く。待機作は『地獄でなぜ悪い』(2013年3月公開予定)。また、著書『非道に生きる』(朝日出版社)発売中、15作品を収録したDVD-BOX『園子温 監督初期作品集 DVD-BOX』11月22日発売。

映画『希望の国』は全国公開中。
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取材/写真・文 田辺ユウキ(映画評論家)


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羽渕 比呂司
羽渕 比呂司
 大阪ガス行動観察研究所社員