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2012年10月02日配信

映画『夢売るふたり』(公開中)は、九州から東京に出てきて小料理屋を営んでいた貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)が火事で全てを失ってしまうことから物語が始まる。この火事をきっかけにお金のため夫婦で結婚詐欺を繰り返すことになる。結婚詐欺に引っかかるのは30歳を過ぎた女性たち。女性の心の隙に入りこむ貫也とその後ろで手を引く里子─。監督・脚本は西川美和さん。これまで「ゆれる」「ディア・ドクター」など監督、本作でも持ち味の鋭い心理描写で楽しませてくれる。


◆阿部サダヲさんが結婚詐欺師役に!
結婚詐欺について取材しました。詐欺が直接のテーマではないから、リアリティはそこまで追求していないけど、とびきりいい男でなくてもいいんです。一芸を持っていたり、何かに一生懸命打ち込んでいる男に女性が弱い。すべての女性が弱いのではなく、男に騙されるタイプの女性がそこに弱い。何かを信じたいとか、助けてあげたいとか、どこか優しい所があるんじゃないですかね。次々と騙される女性たちが持っている弱点、この人には何が足らなかったのかが見えてくればいいと思いました。

◆生々しいヒロイン:松たか子さん
この映画では、女性のダーティーな部分を描くのが最大の目的でした。綺麗に見えすぎるより、生きている生々しさを見せたい。生々しいヒロインを描きたい。このために肝の据わった人にやってもらわないと話しになりません。ただ、根っこのところでは絶対壊れない品格を持っていないと汚く映るだけです。松さんだったら、このヒロインを救済してくれるだろうって思いました。物語の後を締めるのは鶴瓶師匠。いろんな闇を抱えているけど根っこのところではいい奴。鶴瓶師匠のなんともいえない笑顔のなかの怖さが好き、今回はそれをお借りしました。

◆貫也と里子はなぜ結婚詐欺を選んだのか
結婚詐欺に及んだ行動の理由は、明確に描いていません。自分のことも分からないのが人間だと思う。分からないから怖い、分からないから面白いと思う。逆にわかりやすい人の方が怪しいと思います。肉親やパートナーは分からないところが魅力なんだと。行動の理由は一つではない。本当はやさしくしたいのに、きつい態度をとってみたりするのが人間、今後もそういう人間像を描いて行きたいです。

◆はじめて女性を主人公に
一人の人間として他者に認めてもらいたいとか、生きている価値があるんだってことを誰かに言ってもらったり、実感したいと思っている。地位やお金を手に入れてもなかなかそこは埋まらない。女性はいつまでたっても幸福感がない生き物、男性より敏感なところがあると思います。この映画を見た人が、風俗嬢に感情移入したり、ウェイトリフターに気持ちを寄せたりしていると聞きます。女性は外見ではなかなか判断がつかないんだと思いました。映画をみて共感してもらって、それがガス抜きになってくれるといい思います。

◆西川美和プロフィール
1974年、広島県生まれ。大学在学中に是枝裕和監督「ワンダフルライフ」(1999)にスタッフとして参加して映画の世界に。助監督を多数勤めたのち、2002年「蛇イチゴ」で脚本・監督デビュー。これまでの映画監督作品に「ゆれる」(2006)「ディア・ドクター」(2009)。本作は3年ぶり4作目の映画。

映画『夢売るふたり』は全国公開中。
◇公式HPこちら


取材/写真・文 羽渕比呂司


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羽渕 比呂司
羽渕 比呂司
 大阪ガス行動観察研究所社員