このエントリーをはてなブックマークに追加
2013年04月24日配信

劇団「東京セレソンデラックス」の同名公演を映画化した『くちづけ』(2013年5月25日公開)。「東京セレソンデラックス」の主宰・宅間孝行が、実際の事件から着想を得て作りあげた温かくも悲しい親子の物語。ひとりの元人気漫画家・愛情いっぽん(竹中直人)。彼は、知的障害を抱える愛娘・マコ(貫地谷しほり)とともにグループホームで暮らしはじめる。そこで出会う個性的な住人たち。そのなかのひとり、常にハイテンションな青年・うーやん(宅間孝行)と、マコは恋に落ちていくが、そんな彼女たちを目の当たりにして愛情いっぽんは痛切な思いに駆られていく。

マコ役は貫地谷しほり。連続テレビ小説『ちりとてちん』、映画『パレード』などさまざまなキャラクターを演じあげてきた若き実力派女優をして、「容易な役ではない」と腹をくくらせる要素が強かった。それだけに撮影に入る前に行われたスタッフ、キャストによるグループホームの訪問体験は、「(物語として)ヘビーなところが多いなか、どの方向に(役を)進めていくべきか悩んでいた」という彼女を導いていった。

「みなさん本当に個性豊かで、自分のなかで(役作りの)選択肢が広がりました。女性の方々はかわいらしい雰囲気がありますし、結婚、恋愛に対して高校生のような甘酸っぱい、キュートな気持ちを抱いていらっしゃって、堤監督とは、そういう部分からイメージをふくらませていきました」

うーやんには、舞台版同様に宅間孝行が扮している。堤幸彦監督から「この役は宅間さんしかできない」とリクエストを受けての続投。演技のニュアンスもほとんど変えず、自分が作り上げたうーやんというキャラクターの魅力を、そのまま映画のフィールドで発散している。

「原作を書くとき、グループホームの様子を撮影したビデオのなかに、うーやんのモデルになった方がいたんです。彼はずっと喋っていて、いつも『勘弁してくださいよ』と言っているんです。それがとても楽しい雰囲気が漂っていて、そこを(観る人に)伝えたいと思った。さらに別のグループホームにいた、テンションの高い女性の性格をドッキングさせたんです。つまり聞いた話、見た話を全部入れて、『くちづけ』の原作を書いていきました。この映画は、もしかすると現実離れした世界のように思えるかもしれませんが、そんなことはない。もっともっとユニークな人たちがたくさんいます。みんな最高に楽しい!」


本作に関して思い入れが強いはずの宅間孝行。しかし貫地谷しほりは「ホン読みのときも、それを感じさせない。役柄についての話も現場でそれほどしませんでした。それを見せないところに、男らしさを感じました」と語る通り決して熱弁はしない。続けて「私にとってうーやんは、好きな人を思いやる気持ちが強い男性として受けとめました。それは人間が根本的に大切にすべき部分。自分も常にそういう人でありたい」と話すように、伝えたいメッセージは物語にこめられている。宅間孝行も「自分が書きたい題材とちゃんと向き合って作った作品だから、とにかく観て、感じて欲しい」と多くを語らず、しかし深い想いをまじえている。

好きな異性を前にするからこそ起こす本能的な行動。親子だからこそ、決断しなければならないこと。心に突き刺さるラストは、映画を観終わったあと、じっくりと考えさせられる。


映画『くちづけ』は2013年5月25日より公開
◇公式HPはこちら



取材/写真・文 田辺ユウキ(映画評論家)


The following two tabs change content below.
田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。