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2013年07月01日配信

選挙戦において、当選する見こみが薄い“かませ犬”的な存在=泡沫(ほうまつ)候補にスポットをあてたドキュメンタリー映画『立候補』(公開中)が話題を集めている。



泡沫候補のなかでも有名なスマイル党総裁・マック赤坂にスポットをあて、京大出身、年商50億というエリートの成功者が、なぜ負け続けても選挙に出馬するのかを解き明かしていく…ハズが、本作を観ていくと結局全然明かされないばかりか、謎が深まるばかりなのだ(笑)。

藤岡利充監督は「マックさんは、演説のとき曲を流しているけど、あまりその意味が見えない。それに『人生とは、幸せと成功である』『普通はどちらか一方しか手にできないけど、俺にはスマイルセラピーがあるから両方を手に入れている』と言っていて、でも僕らからすれば『えっ、何を言ってるの?』という感じで(笑)」、木野内哲也プロデューサーも「この映画には、(東京都知事選の政見放送で波紋を呼んだ)外山恒一さんが出演していますが、彼はしっかり計算があって、理論のなかで発言して、行動している。マックさんのスマイルセラピーもきっと何か(論理が)あるんだろうけど、線が抜けているような気がして、結局いつまでたってもそれが解明できない」と首をひねる。


2011年、橋下徹率いる維新の会が席巻した大阪府知事・市長のダブル選挙。結果は戦う前からほとんど見えている。それでもマック赤坂は立ちあがる。でも、300万円の供託金を支払ってまでして、なぜ負け戦に挑むのか。

藤岡利充監督は「もともとは“政治”と闘っていたんだと思います。しかしそれが、落ちたことへの反動の増幅になっていったのでは。でも僕自身もひとりで活動しているから、マックさんの気持ちはどこか分かるんです。いや、泡沫候補と呼ばれる人たち全員の闘い方に(自分を)重ねている部分がある」、木野内哲也プロデューサーは「確かに、『負けると分かっていて、なぜ闘うのか』という問いの答えを提示しきれていないのですが、ひとつ言えるのは世の中の空気と闘っているということです」と語る。

象徴的な場面がある。難波の駅前で、橋下徹(当時は大阪市長候補)と松井一郎(当時は大阪府知事候補)の演説カーの前で、「同じ300万円を払っているのに、なぜ自分は、あなたたちのように大勢にむかって演説できないんだ」と“抗議”をする。そこで橋下徹から「どうぞ」とマイクを渡される、その瞬間。マック赤坂の対応は、意気揚々としたこれまでの言動とはかけ離れたものに豹変。世の中の逆風を一蹴するどころか、早々と白旗を上げる。少なくとも筆者はそれに失望した。

木野内哲也プロデューサーも「松井さんから『時間をあげる』と言われて大観衆の前でやっと演説ができるのに、思っていることをしっかりと口にすることができない。持っている検知、成功の秘訣も言わない。あれだけ世の中を騒がしておいて肝心なときの言葉を持っていない。まるでギタリストが、ソロを弾くときに実力のなさが露呈しちゃう感じだった。最高のピークのところで詰まってしまうわけだし」と、どこか憤りを感じた口調になる。

ただ藤岡利充監督は「でも、あれだけの大観衆の前でしゃべろうとしたことはすごいと思うし、勇気がある。あの場面で、やっぱり『ひとりで闘っていること』がきわだった。もちろん勝つためには、組織に入ってやりあう方が、味方も多いしやりやすいけど、僕はマックさんのような勇気を称える社会になって欲しいです」と語る。

政治に対して、社会に対して、何か思うことがあるなら声をあげるべきだ。立ちあがるべきだ。マック赤坂の選挙戦は確かに異色に映る。そんな彼を笑うも良し、怒るも良し。だが、何食わぬ顔で生きて、物事をあきらめたり、無関心に生きたりしている人より、よほど力強く、尊敬するべきではないか。


映画『立候補』は全国公開中
◇公式HPはこちら



取材/写真・文 田辺ユウキ(映画評論家)


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田辺 ユウキ
田辺 ユウキ
1979年生まれ。関西を拠点に映画評論家としてレビューやインタビューの執筆ほか、また映画と音楽のプロモーターも務める。2014年に大阪市映像事業「CO2」プロデューサー就任。「大森靖子映画祭」「いずこねこ 最後の猫トーク」などイベント企画も行う。