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これは太宰の学園ドラマだ!『パンドラの匣』監督の冨永昌敬さんインタビュー


 太宰治原作『パンドラの匣』が映画化。終戦直後、山里の結核療養所<健康道場>で繰り広げられた青春絵巻。芥川賞作家・川上未映子が女優デビュー、ヒロインに仲里依紗が出演する。・・・映画詳細はこちら>>



 監督を務めた冨永昌敬さんは大学卒業後、ビデオ映画などを制作、2006年「パビリオン山椒魚」で長編映画監督デビューした。「今回はベストに近いキャスティング」と胸を張る。川上未映子さんを起用したいきさつについて次のように語る。


本作で女優デビューとなった芥川賞作家・川上未映子

「キャスティングを考えている時、ちょうど芥川賞の発表で、川上さんがテレビでよく話題になっていたんですよ。YouTubeでもアップされていて。歌を歌っている姿とか、バラエティに出演している姿を見ていると、受け答えとか、とても器用にこなしていて、これは竹さん(川上さんが演じた登場人物)じゃないかって思ったんです。最初は、プロデューサーに川上さんみたいな女優さんを捜そうって、話していたんですけど、盛り上がってしまって、ダメもとで会いにいったら、OKだったんです。」

 冨永監督が、本作を製作するきっかけとなったのは、前作「パビリオン山椒魚」だったという。原作「山椒魚」作者の井伏鱒二は、当時、太宰治とは師弟関係にあった。冨永監督は、師弟関係ながらも、太宰が“山椒魚を可愛がる老人の話”を書いていたことを知る。

「自分の師匠をちゃかしている(笑)。これが面白いと思ったんですよね。それまでは晩年の死ぬ間際の太宰の代表作しか知らなかったんだけど、この事実を知ってから、彼の作品を読んでいくと、ものすごく柔らかい人、愛の深い人って感情が出てくるんです。破滅的な人では無かったって。学校でも僕は、軽いのりの作品から読ませていくべきなんじゃないかって思います。『パンドラの匣』を読んでからはいつかやるだろうって思ってました。」


冨永昌敬監督 1975年、愛媛県生まれ。日大芸術学部映画科卒業。

 物語は、結核を煩い山里の健康道場へ入所してきた染谷将大さん演じるひばりが、川上未映子さんや、仲里依紗さん扮する看護師さんに囲まれ、恋いや友情を期待しながら療養の生活をおくることから展開が始まる。

「太宰の学園ドラマですよ。つまり健康道場っていうのは、全寮制の学校みたいなもので、ひばりの目からみた先輩、同じクラスの友人にはマア坊(仲里依紗)、新任の先生は竹さん(川上未映子)がいて、これじゃ、学校行くのが嬉しくなるよね(笑)。」

 この話は、実際に大阪あった結核療養施設での生活が元になっている。施設に入っていたある青年が太宰のファンで、手紙のやりとりをしていたという。のちに青年は亡くなってしまうが、書いていた日記が太宰の手に渡り、これを原案に小説「パンドラの匣」が発表された。

「当時の青年が日記や手紙を書くのは、今の人がブログを書くのと一緒じゃないかと思います。でも実際の日記は好きでもない女性と寝たりと赤裸々で、日記をもらった太宰も困ったんじゃないかって(笑)。一応、文通をしていた青年が死んだということで、受け止めたんだろうと思うけど(笑)。性格は可愛くない。だから太宰は“ひばり”っていう人物を作ったんじゃないかって思っています。」

 芥川賞作家の川上未映子が女優デビュー、「時をかける少女」主演が決定している期待の女優・仲里依紗、さらに、窪塚洋介、ふかわりょうなど個性的な面々が出演し、どれもキャラクターにぴったりな配役。また細部の質感にこだわったという映像は、昭和のはじめころをうまく再現し小説世界に入り込ませることに成功している。

 映画『パンドラの匣』は現在、全国公開中だ。



[取材:10月2日 大阪市内]
写真/文 羽渕比呂司


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羽渕 比呂司
羽渕 比呂司
 大阪ガス行動観察研究所社員