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2011年03月22日 配信

モンスターペアレンツや学級崩壊、学力低下など問題が山積する教育現場。1980年代に戸塚ヨットスクール事件で有名になった戸塚校長と戸塚ヨットスクールにあえて密着し現代の日本の教育が抱える問題を提起するドキュメンタリー映画『平成ジレンマ』。制作したのは、愛知、岐阜、三重に放送エリアをもつ東海テレビ放送。出演した戸塚宏校長と監督の齊藤潤一さん、プロデューサーの阿武野勝彦さんに話を聞いた。


中央)監督:齊藤潤一さん
左)プロデューサー:阿武野勝彦さん

(齊藤)「戸塚ヨットスクールが、世間を騒がせていた30年前は中学生でした。悪いことをしたら『戸塚ヨットスクールに入れるぞ!』って脅された世代(笑)。取材対象として興味を持ったのは戸塚校長の出所会見(※1)の映像でした。そこで明日から校長として復帰するって話をしていて、すごくびっくりしたんです。同じ愛知県でまだ学校があるんだって。親が子どもを預けているってことに驚きました。それは何なんだろうって。単純に今の戸塚ヨットスクールを見てみたいっていうのが取材のきっかけでした。だから、バッシングるする気も、持ち上げて宣伝する気もありませんでした。
 あの厳しいスパルタが今も行われているんじゃないかって思っていたけど、それは全く無くてびっくりしました。運動もあるけど激しいものじゃなく、普通の高校の部活の方が厳しいんじゃないかっていうくらい(笑)。昔、スクールにいたのは非行の子でしたが、今は引きこもりの子が多い。でも親がどうしようもなくなって、戸塚校長に頼るという構造は、30年間変わってない。私たちの社会はこの30年、何をしてきんだろうって思ったんです。」



激しい体罰を含むヨット訓練で、訓練生の死亡や行方不明事件を起こした戸塚ヨットスクール事件(※2)。当時のマスコミは大々的に戸塚校長をバッシング、世論は体罰を否とし、教育から排除する方向へ流れた。あれから30年─。70歳を過ぎた戸塚校長は、当時と同じ愛知県で戸塚ヨットスクールを運営、10数名の訓練生が在籍する(※3)。訓練生の多くは引きこもりやニートで、平均年齢は20代と高齢化している。スクールには子育てに悩む親からの相談が後を絶たない。



(戸塚校長)「昔と比べると子どもの質が変わってきている。責任感、努力すること、幸福になる力、これら人間として肝心な力を作りあげて、はじめて人間性が高まったって言うんです。今の小学校での教育が全部間違っているんです。刑務所に入っている間に、教育界では子どもをしごかないようになってしまったから、今は体罰どころか命令をしてはいけない。『並べっ!』って言ったら権利の侵害だって言い出す。子どもの権利を大切にしようってことで、体育の授業でも先生が子どもにお願いをする。甘やかすことに夢中になっちゃって。
 子どもをスクールに受け入れるときは、今はこうなってしまっているけど、もしかしたら小学校をちゃんと過ごしているかもしれんっていう期待をする。まずは生命力が強くないといけない、生命力はかなり後になっても意外と強くすることができるから、そいつをヨットでうまく強くして、生命力を強くしてみたら、もしかしたら精神力も強くできるかもしれないという期待がある。だから手遅れやなぁと思う奴も一応受け入れてみる。でも昔は『必ず直してやる』っていう自信はあったけど、今は体罰は使えんから、そうはいかない。『うまくいかないかもしれませんよ、それでも良かったらやるけど』ってはじめに言っておくんです。」

本作は2010年5月にドキュメンタリー番組として東海テレビの放送エリア内のみで放送された。放送したところ視聴者からの反響が大きく、未公開シーンを加えて劇場公開することになった。監督は、光市母子殺人事件を弁護団の側から追った「光と影」(08民間放送連盟賞最優秀賞)など手がけた東海テレビディレクター齊藤潤一さんと、同プロデューサーの阿武野勝彦さん。地方テレビ局がテレビドキュメンタリーを映画として発信するという異例の試みとなった。


(齊藤)「テレビと映画の一番の違いは、放送時間に制限がないこと。テレビでは伝えきれなかったことを盛り込んで、自由に作りたいものを作ることが出来ました。」

(阿武野)「テレビで放映したときの視聴率は5.2%でした。戸塚校長のインパクトを考えると、もうっちょといくかなっと思っていたけど(笑)。テレビドキュメンタリーを劇場映画にするのは、制作を放送の枠の中でこなしておけば、製作費0円で映画にできるってこと。宣伝費のリスクはあるけど、ローカル局が情報発信する場所を確保して、ステレオタイプのニュースばかりじゃないものが見られるってことになると、制作者の気持ちが庇護されるし、ドキュメンタリー映画を作っている人たちも「俺たちもテレビに入ってくか」ってことになると良いんじゃないか、この形をもっと広げていけるんじゃないかと思っています。」

(戸塚校長)「マスコミがせっかく潰した奴をもう見たくない。悪者に蘇られたらかなわんって思って、どうせ誰も観ないんやろうなって思っていたけど、東京では意外に人が詰めかけ、しかも若い子が多いと聞く。この映画の出来には満足しとる。今までのマスコミがひどかった(笑)。公平に扱ってくれたら自信があるのに。映画を観てみんな勝手に考えればいい。考えるっていうのは一種の行動、だからこの映画を観ると疲れる。そいうトレーニングをやってないからなんですよ。そういう力を養わないと日本はダメになる。そんな難しいことはないんやから…。映画は好きでよく観ますよ。ハリー・ポッターは全部観てください(笑)。あれがイギリスの教育の仕方ですよ。あれのどこに子どもに人権を認めとるの?喧嘩し放題だし、イジメし放題。先生はものすごく高圧的で、気に入らんかったらクビだって言う。そして平気で生死をさまよわせることをやらせる。命がけで、死ぬなって言う。あれが教育なんですよ(笑)。」

『平成ジレンマ』は大阪・第七芸術劇場では公開中、4月9日(土)より京都・京都シネマ、神戸・神戸アートビレッジセンターほか、全国順次公開される。
◇公式HPはこちら



2月28日 大阪市内
取材/写真・文 羽渕比呂司

※1 平成14年に最高裁で懲役6年の刑が確定し収監される。平成18年に静岡刑務所を出所した。出所直後にマスコミのインタビューに応じている。
※2 昭和51年に戸塚ヨットスクールを開校、当初は純粋なヨットスクールだったが、情緒障害児の受け入れを始めたことで、評判となる。しかし、訓練生が相次いで死亡したり行方不明になる事件が起こる。体罰を含む訓練の様子や戸塚宏氏の対応にマスコミの注目が集まり社会問題化した。
※3 刑務所を出所してすぐ戸塚ヨットスクール校長に復帰した。校舎は愛知県知多半島にあり、戸塚校長と4名のコーチ、10数名の訓練生が寮生活をおくっている。現在の訓練は主にウィンドサーフィンで、当時非難を浴びた体罰は行われていない。

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羽渕 比呂司
羽渕 比呂司
 大阪ガス行動観察研究所社員