このエントリーをはてなブックマークに追加
2010年11月02日 配信

 彫刻家イサム・ノグチを育て、波乱の人生を生き抜いたアメリカ人女性、レオニー・ギルモアの生涯を描く『レオニー』(11月20日公開)。監督はライターを経て芸能プロダクションを設立、その後、1988年に「ユキエ」で映画監督デビューという異色の経歴を持つ松井久子さん。

 話は19世紀、ニューヨーク。レオニーが英詩人の野口米次郎と出会うことから始まる。レオニーとの共同作業で野口の詩集が出版され成功を収める。やがて二人は恋に落ちるが、野口はレオニーが子どもを身ごもったことを知ると、日本に帰国してしまう。レオニーは未婚のまま混血の子を生む決意をする。戦況が厳しくなる時代にあって、様々な苦難がレオニーに襲いかかることになる。実在した女性の物語だ。

■7年の歳月をかけて製作


単なる母子ものにはしたくなかったんです。子育ての他に失恋も大きなテーマになっています。息子のためを思う気持ちも半分ありながらも主体性が感じられる女性像です。かつての母子物の映画のように、女性の自己犠牲のもとに立派に子どもを育てるっていう母親像とは違い、レオニーのむき出しのエゴも描いています。また、私はお客さんを信じて、お客さんに考えていただく余地を残すようにしています。押し付けがましいのは興ざめするって思っているんです。

この映画は、日本とアメリカの合作映画です。異国合作というのは、誰と組むかが重要になってきます。人から紹介されて共同作業を進めるんですけど、どっかで決定的に違うなって思うことが何度もあって、でも私が主体者だから「ごめんなさい」って断るんだけど、それは恋愛中に好きじゃなくなった人に別れの宣言をするのと同じ(笑)。一本の映画製作を成し遂げようとすれば、傷も受ける。でも喜びも、素晴らし出会いもいっぱいありました。

監督は、リーダー・シップをとるのが難しいって思います。これまでの映画では苦労は多かったんです。でも今回の映画は、6年間ずっと想い続けてきたせいか、私の中にも自信がありました。こんな絵が欲しいとか、こうしてくださいとか、肩をはらず胸を張って言えました。リーダーが揺れないでいるとうまくいくものです。スタッフも「あなたがやりたいことを実現する為に、私たちがいるのよ」って感じで、私の言うことを聞いてくれて、今回の現場は苦労がなかったです。逆に撮影が3か月で終わってしまてって、「もっとやっていたい!」って思いました(笑)。

ハリウッドでは出演者はもちろん、スタッフの参加もシナリオだけで決めるんです。3人目に出会った共同シナリオのデビッド・ウィナーが良いセンスで、シナリオの評判がとてもよかったんです。アメリカでは、有名無名とか、過去に何本撮ったとか、何歳とか、女性とかそんなことには関心を持たないんです。それよりも今何を考え、どんなビジョンをもっているのかが重要。チャレンジしようとすることに敬意を払ってくれ、応援してくれる姿勢がありました。日本の映画界は保守的ですね。女性監督っていうと、それだけでハンディキャップに思えちゃうことがある。私はアメリカにいる方が元気よ!(笑)。



■人生には失敗はつきもの。恐れる必要はない。

野口米次郎の資料は山ほどあるんだけど、レオニーっていう名前は米次郎の年譜にも名前がない、息子の名前はあるのにですよ。レオニーの歴史に蓋をされていて、余計に義憤を感じましたね。ドニス昌代の原作以外には、国会図書館に米次郎とレオニーや、レオニーと出版社がやりとりした手紙が残っていて、それが良い資料になりました。劇中に出てくる手紙の内容は本物です。資料があまりなかったんですが、ガチガチに資料が多いっていうのも想像力の余地がなくて触手が動かないんです。行動の奇跡の間隔をどう埋めるのか、っていうのが作り手の面白さかなって思います。

だからレオニーのキャラクターや会話は私の想像、フィクションです。それは、ドキュメンタリーを作るのとは違うところだと思います。私自身が息子が5歳の時で離婚して一人で子育てをしてきた。息子が15歳の時に、海外に「行きなさい!」ってやったこととか似た出来事もあったり、この映画を借りて、私の伝えたいことが込められるのかなって思いました。この映画で一貫して私が言いたかったのは、人生には失敗はつきもの。それを恐れないで、自分らしく生きた方がいいんじゃないのってことでした。



■資金集めに奔走、13億を集める

13億のお金を集めて、失敗したら何をやって食べていくんだろって思って、映画が出来ても「ヤッター!」って気持ちにななれないですね。

私は何も隠さず、全部みせちゃいます。60歳ぐらいの力ない女性が1本の映画を成立させるために目的に向かっている。そんな姿をみてるから、たくさんの人が応援してくれるんだろうって思っています。私が雲の上っていうのではなくみんな並列の関係。苦労も含めてみんなで私の体験をシェアしているし、逆に「私たちが付いているから諦めないでね」って言ってもらっている。

映画作りを通して感じるのは、与えられるのを待っているばかりではなくて、最初から無理って決めつけないで、何か行動すれば動くかもしれないってこと。今は一つの社会運動をしているんだっていう気持ちになってきました。

今は如何にたくさんの人に観てもらって、投資家のみなさんにお返しすることしか考えてません。こんな映画を作らしてもらった幸運はない、それに報いるのにはお金を返すしかないって思っています。だからまだ次の映画は考えられないですね。いつも結果が出てからしか先のことは考えられません。


松井久子監督、『レオニー』は、11月20日(土)より全国公開される。
公式HP



10月25日 大阪市内
取材/写真・文 羽渕比呂司

The following two tabs change content below.
羽渕 比呂司
羽渕 比呂司
 大阪ガス行動観察研究所社員